8月24日~26日の3日間、インターンシップ「新種の微生物を見つけよう!遺伝子で紐解く微生物の種多様性」を実施しました。特任研究員の高部さんと院生の長谷川さんが全体のマネージメントをやってくれて、春と同じ内容で、ただし違うサンプルの単離株の16SrRNA遺伝子配列を決定して、分類群の特定を行いました。今回は学部1年から4年生まで色々な大学から6名の学生さんが参加してくれました。使った単離株は、波の花、真鶴の海水、潮溜まりの海水、水月湖の海水から分離したものをそれぞれ一株ずつ選んでもらい、各自4株の遺伝子配列をサンガー法で決定しました。デモ用に解析した株も含めて、全部で33株の配列を決定し、そのうち新種判別の基準である既知種との相同性97%以下の株は5株でした。そのうち3株は真鶴沖の海水から分離したもの、2株は能登半島の曽々木海岸で採集した波の花から分離したものでした。今後、チャンスがあれば新種記載することになるかもしれません。
エアロゾルから雲をつくる
8月最初の週に広島大に行ってきました。1ヶ月ほど前に来年度の研究費申請のための計画をいろいろ思案しているうちに、簡単な予備実験を思いつきました。私たちは、微生物活動がエアロゾルや雲核生成過程にどう影響するかをテーマに研究を行っています。例えば、微生物分解によって有機物の化学形態が変わりますが、そうした変化は有機物を含むエアロゾルの雲核生成能(CCN活性)に影響するのか?というのが基本的な疑問です。まずは、基質とその分解産物をそれぞれエアロゾル化してCCN活性を測定すれば一つの答えが出ます。ということで、どうしても確かめておきたくなり、エアロゾル発生装置と雲凝結核活性測定装置のある共同研究者のところに押しかけたというわけです。心配していたトラブルもなく、なんだか予想以上にそれらしいデータが取れて大満足でした。最終日には大崎下島のMitarai Baseで今後の打ち合わせをして帰ってきました。御手洗地区は、江戸時代に、風待ち潮待ちの港町として栄えた町ということで、商家、茶屋、船宿など当時の風情が今でも残されています。お米屋さんの店舗兼住宅だったというMitarai Baseもそうした町並みの中にある素敵な建物で、海を望む部屋で心地よい潮風を受けながらの贅沢なミーティングでした。
広島大学
エアロゾル発生装置とCCNカウンター
MitaraiBase
好気性光合成細菌のドラフトゲノム
高部由季特任研究員が、大槌湾や宇和海で分離した好気性光合成細菌のドラフトゲノムを、米国微生物学会が発行するMicrobiology Resource Announcement誌で公開しました。
酸素非発生型好気性光合成細菌 (Aerobic Anoxygenic Phototrophic Bacteria, AAnPB) は、海洋表層に普遍的に分布し、増殖速度が速いため、微生物ループを介した炭素循環におけるキープレイヤーとして重要です。今回ゲノムを解読したのは、岩手県大槌湾の海水から分離培養したRoseobacter sp. OBYS 0001株と、愛媛県愛南町の真鯛養殖いけす周辺の海域から分離したJannaschia spp. AI_61とAI_62株です。
Roseobacter sp. OBYS 0001株は、16S rRNA遺伝子の配列相同性(100%)からR. litoralisと考えられます。この株は、高部博士のこれまでの研究(Sato-Takabe et al., 2012; 2014)で、光合成に関する生理的性状が詳しく調べられています。今回のゲノムデータは、それらの性状がどのような遺伝的機能によって維持されているのかや、他の光合成細菌との進化系統学的な関係がどうなっているのかなどを明らかにする研究に利用されることになります。
一方、愛南町の養殖いけす周辺海域には、上記AAnPBが通年で分布し、時に全菌数の24%超を占めることがわかっています(Sato-Takabe et al., 2016; 高部, 2020)。Jannaschia spp. AI_61とAI_62株のゲノムデータは、魚類養殖場の低次生態系を構成する主要メンバーの遺伝的機能を明らかにする意味で重要です。また、Jannaschia属として現在記載されている12種のうち、光合成能が確認されているのは2種しかありません。今回のAI_61とAI_62株は、最近縁種との16S rRNA遺伝子配列相同性(96.53%)から、本属の新種の可能性もあり、新たな光合成能をもつJannaschia属の株として、比較ゲノム解析をすると面白そうです。
好気性光合成細菌についてさらに詳しく知りたい方は、高部博士の総説をぜひご一読ください


OceanDNAテック2021動画公開
6月30日に渋谷キューズで開催したイベント「OceanDNAテック2021」が、おかげさまで盛況のうちに終了しました。当日はオンラインと会場でのハイブリッド開催でしたが、時節柄か渋谷駅直結という便利な会場立地にも関わらず圧倒的にオンライン参加の多いイベントとなりました。事前登録は300名超で、実際の参加は270名ほどでした。この手のワークショップとしては、まずまずの集客ではなかったかと思います。大学関係は3割ほどで、民間企業や一般の方に多く参加いただいたようですので、自動化技術の社会実装を目指すワークショップとしては良いアピールができました。
さらに広くアピールするために、録画した動画を公開しました。こうした動画を簡単に公開できるのは、オンラインワークショップならではですね。社会実装に向けて、引き続き情報発信を続けていきます。
OceanDNAテック2021 参加登録開始!
研究プロジェクトの成果を、いかにして社会実装するか。新しいチャレンジが始まります。このイベントは,環境中での生物動態をモニタリングするツールとして急速に発展しつつある環境DNA 解析技術について,海洋環境での利用に必要な技術や実践例を企業,行政,学術等の多様な業界の皆さまに広く知っていただくことを目的としています。
イベントウェブサイト:http://ecosystem.aori.u-tokyo.ac.jp/OceanDNAtech/
渋谷QWSイベントサイト:https://shibuya-qws.com/oceandnatech2021
参加申込サイト:https://oceandnatech2021.peatix.com/
私たちの研究室では、環境中での微生物動態を解析するために、従来より海水のフィルターサンプルから抽出したDNAの解析を行ってきました。こうしたアプローチは1990年代に登場し、分子生物学的手法によって微生物の生態を研究する学問として、Molecular Microbial Ecology(分子微生物生態学)と呼ばれてきました。2000年代後半に次世代シーケンサーが登場すると、微生物群集が持つ全DNA配列を対象に網羅的にシーケンスして解析するメタゲノミクスへと発展しています。
次世代シーケンサーによるDNA配列決定の劇的な低コスト化と効率化によって、微生物だけでなく、環境中でのあらゆる生物動態をモニタリングするツールとして環境サンプル由来のDNA配列情報が利用できるようになってきました。環境中に存在する生物由来の細胞(水中では主に表皮からの剥離と糞便に由来)および微生物細胞から抽出回収されるDNAは「環境DNA」と呼ばれ、回収したDNAを解析することによって、現場に生息する生物種の特定や存在割合、多様性の把握に利用することができます。環境DNAによるモニタリングは生物個体そのものを採集しないため、サンプリングが容易でかつ野生生物に負荷の少ない利点があります。
私たちの研究室では、海洋研究開発機構や千葉県立中央博物館などと協力して、海洋における各種生物群(バクテリア,プランクトン,魚など)の動態をモニタリングできる現場型環境DNA自動分析装置と,その周辺技術の開発を行ってきました。これらの技術は、環境保全、環境影響評価、水産資源評価、下水における病原体検出、工場排水や大規模プラントの処理曹における有害微生物検出といった多様な応用展開が想定され、従来の環境調査や資源調査の枠組みを大きく変革すると共に、海洋生物モニタリングへの市民参加を可能とする技術としても注目されます。私たちが目指す社会実装のためには,当技術ニーズの掘り起こしや正確な把握,多様なステークホルダーとの協働体制を整備する必要があり、そのための活動の一環として今回のイベントを企画しました。
多くの方に参加いただけることを期待しています。
春のインターンシップ
大槌から戻った翌日から3日間のインターンシップを実施しました。この企画は、大気海洋科学スプリング・インターンシップということで、学部生向けに研究所での研究活動を3日間程度で体験してもらうもので、それぞれの研究室単位で様々なテーマを提供しています。私たちの微生物分野では生物遺伝子変動分野の吉澤先生と一緒に「海洋微生物の新種を探そう!」というテーマで募集して、4名の学生が参加してくれました。様々な分離源から得られた細菌株の16SrRNA遺伝子配列を決定し、相同性検索から近縁種の特定と系統解析をしてもらいました。昨年はコロナのため中止になってしまい、今年も3月まで緊急事態宣言が続いたため、対面での実施ができるかどうか危ぶまれたのですが、なんとか予定通り実施することができました。何人かの学生とスタッフに時間を使ってもらい、それなりの手間はかかりましたが「1年間オンライン授業ばかりだったので、久しぶりに実験ができて楽しかった」「微生物の実験やレクチャーを聞いて視野が広がった」と大好評でした。また、スタッフの分も含めて30株以上のシーケンスが得られたのですが、それらの中には新種の候補となりそうな株や、さらに解析したら面白そうな株もあって、そうした意味でも有意義な3日間となりました。
ATGC12の開発
文科省プロジェクトで開発中の12連装自動採水装置Autonomous Gene Collector 12(ATGC12)のテストのため、開発者であるJAMSTECの福場博士と一緒に岩手県大槌町にある国際沿岸海洋研究センターに1週間ほど行ってきました。センターの係船場に設置して24時間の動作テストです。詳しくは、これからの分析結果待ちですが、装置の動作は問題なさそうなので、順調に次のステップに行けそうです。今回はグランメーユを出してもらって、大槌湾内での採水も行いました。戻ってからの微生物相解析は特任研究員の後藤さんが担当します。想定したデータが得られるかどうか期待です。
令和2年度学位記授与式
修士の学生2名の学位記授与式がありました。今年度はコロナ禍のため簡素な式典となりましたので、ささやかなお祝いをしました。野村さんは社会人として、Ghoshさんは博士課程での活躍を期待しています。おめでとう!
波の花サンプリング in 2020
かいめい航海から戻って息つく間もなく、暖かい小笠原から大雪の能登へと今年も行ってきました。日本海側は前週から大雪で、到着した日も吹雪。飛行機も視界不良で着陸できるかもわからないような天気でしたが、翌日からはすっかり穏やかな天気。波の花が発生する気配は全くありません。代わりに海水や海藻などをサンプリングしながら待つこと2日間、その間に体験活動施設「のと海洋ふれあいセンター」を訪問。センターは、九十九湾をはさんで臨海実験施設の向かいにあり、奇しくも職員のお一人は広大時代の研究室OBということで、施設を案内していただき波の花の発生状況なども色々と教えていただきました。ようやく3日目になって、強い南風のおかげで波の花のサンプリングができました。





「かいめい」航海
初めて「かいめい」に乗船しました。11/25に横須賀のJAMSTEC岸壁を出港して、西小笠原海域で2週間ほど調査をして、12/12に父島で下船しました。コロナ流行のためにしばらくはすべての航海が中止されていましたが、夏以降から少しずつ再開されましたので本航海も予定通り乗船することができました。もちろん、乗船前には全員がPCR検査で陰性を確認して、船内でもマスク着用での作業となりました。
本船は、4年前に就航した海底探査を主目的とする最新鋭の研究調査船で、予てから乗船してみたいと思っていましたが、そもそも海底に関する研究をやっていないこともあってなかなか乗船の機会がありませんでした。今回は、深海底の海洋保護区をテーマとする環境省主導のプロジェクトが今年から開始され、そのための調査ということで乗船の機会を得ることができました。主役は、深海底の魚やエビ、サンゴ、海綿といった大型生物ですが、私たちは深海底の堆積物や水を対象としたメタゲノム解析を担当します。
この航海では、私がいつも参加している航海とは違って、無人潜水艇などを使った海底の直接観察にほとんどの時間を費やしましたので、とても新鮮かつ得難い経験でした。本航海では手法開発のための様々なテストに加えて、どんな生物がどこにいるのかを調べる生物マッピングのミッションもありましたので、大学や博物館などから生物分類群ごとの専門家が乗船していました。彼らが、潜水艇から送られてくる映像をリアルタイムで見ながら生物種を特定し、珍しい種があればロボットアームや掃除機のようスラープガンで採集するといった作業が毎日のように繰り返されました。生物学における直接観察の楽しさと重要性を改めて感じた航海でした。
父島では土曜日に下船して、火曜日に出港する「おがさわら丸」で東京に戻りました。
マルチプルコアラーサンプル




「かいめい」と「おがさわら丸」