招聘教授が来日

12/7から3ヶ月の予定で韓国の浦項にある韓東大学教授の都先生が滞在されています。都教授は、海洋微生物の分類、生態、生理活性物質生産に関する専門家で、特に海洋細菌の分離培養に関する豊富な知識と経験のある先生です。1989 ~ 1995年に大学院生として、旧海洋研究所でフグ毒産生細菌に関する学位研究をされました。その後も中野本所や大槌の国際沿岸海洋研究センターに客員教員として 滞在されています。今回の招聘では、フグ毒産生細菌に関する研究の未解明課題について議論しています。1/23には、大学院生などに向けて特別セミナー「フグ毒研究の流れと今後の展開に向けて」を行いました。

県立柏高校で出前講義

1127日と29日の2日間、近くの高校で出前講義をしてきました。午前中に2クラスずつ、合計4クラスの1年生の生徒さんたちに、研究室で分離した新種Amylibacter kogureiや珍種Cellulophaga geojensisを見せながら海の微生物の話をしてきました。2016年から毎年秋にやっていますが、今年で4年目になります。授業時間は50分ですが、高校生相手に適当な早さで進めるのがなかなか難しく、用意した内容の2/3程度しか話せなかったのが反省点です。毎年生徒さんは違うので、同じ内容でもいいのですが、それだと面白くないので、少しずつ内容を変えています。最初の年は、亜熱帯と亜寒帯の生態系の違い、2年目は大気と海洋生態系の関係、3年目は生物ポンプ、今年は生態と適応戦略をテーマにしました。千葉県立柏高校は、10年以上前からスーパーサイエンスハイスクールの指定を受けて理数教育に力を入れているということで、この出前講義もその活動の一環と伺っています。高校生のうちは、大学や大学院がどんなところか、なかなかイメージを持ちにくい中で、大学での研究の様子やこれまで聞いたことのない学問分野の面白さが少しでも垣間見えるといいのですが。今後もこのような機会を捉えて、海洋研究の醍醐味でもある大型研究船を使った調査や研究の魅力について、積極的に伝えていきたいと考えています。

海表面マイクロ層から分離した新種Amylibacter kogurei

「波の花」から分離した珍種「キラキラ菌」Cellolophaga geojensis 

国際水圏メタゲノムシンポジウム

1123日と24日の2日間、北里大学で開催された国際水圏メタゲノムシンポジウムで講演してきました。私の発表は、先日出版されたMarine Metagenomicsに掲載したHiCEP法による微生物群集トランスクリプトーム解析(Fujimura et al. 2019)に関する内容です。私は初日の午前中早々の登壇でしたので、緊張の時間はすぐに終わって、あとはゆっくりとシンポジウムを楽しむことができました。シーケンスのスループット上昇は止まるところを知らず、どこまでも「安く、早く」なる一方ですが、結局のところ研究の良し悪しを決めるのは、アイデアとデザインだということを改めて認識しました。2日目の午後には、真核生物のイントロンと遺伝子組み換え技術の発見で1993年にノーベル医学・生理学賞を受賞されたリチャード・ロバーツ博士によるBacterial Methylomes と題する講演があり、「バクテリアの生命システムを完全に解明したい」と今だに好奇心旺盛に現役で研究されていることにとても刺激を受けました。講演後のパネルディスカッションで、ロバーツ博士が、遺伝子組換え技術に対する必要以上の危険性を煽るような行き過ぎた反対キャンペーンが、世界的な食料や健康問題解決のための技術的可能性を奪っていることに対する深い懸念を示されていたのが印象的でした。(あとで調べたら、「GMO(遺伝子組換え生物)を支持するノーベル賞受賞者からの書簡」「グリーンピース、国連、そして各国政府指導者へ」という声明が2016629日に出されており、これを主導したのがロバーツ博士のようです。)2日間を通じて、メタゲノム解析が微生物動態解析の強力なツールとなっていることを実感したシンポジウムでしたが、同時にメタゲノムデータをどう使って、どう料理するのか、解析のセンスと腕がより問われるようにもなっています。美味しくなるか、不味くなるかは、素材だけでなくて料理の腕も大事ということでしょうか。

北里研究所@白金

日本の細菌学の父 北里柴三郎博士の胸像

 

京都大学で集中講義

1114日と15日の2日間、京都大学農学部の吉田天士教授のお招きで、応用生物科学専攻の大学院生の皆さんに集中講義をしてきました。これまでも単発での出張講義はありましたが、今回のように集中講義形式でやったのは初めての経験でした。内容は、微生物海洋学概論ということで、食物連鎖、物質循環、大気ー海洋相互作用、多様性、方法論などについてお話ししましたが、時間配分が悪く準備した内容を全部は話せなかったのが反省点です。また、改めて海洋学と微生物学を統合的かつ俯瞰的に眺めることができるような教科書があるといいなぁと感じました。30名ほどの出席者でしたが、思った以上にしっかり聞いてもらえたように感じ、充実した2日間でした。初日の夕方は吉田研究室のみなさんが歓迎の宴を開いてくれましたが、その会場がとても素敵な建物でした。昭和6年に建築された旧演習林事務室で文化財指定されているとのこと。

京都大学吉田キャンパス

Gordon Research Conference 2

前回Gordon Research Conferenceについて書きましたが、今回はその続きです。7月1日、日曜日の午後に現地に着いてホテルにチェックインすると、まずは夕食を食べながら参加者同士の顔合わせです。それからオープニングレクチャーに続く初日の講演が始まり夜の9時過ぎに終わりました。時差ボケで、半分寝てましたが….。翌日の月曜日から木曜日までの4日間は、午前中に招待講演とディスカッション、午後は自由時間、夕方4時すぎからポスターセッション、再び招待講演とディスカッション、夜8時から夕食といったハードなスケジュール。自由時間には、ホテルのプールやジムで勝手に過ごしてもいいし、毎日用意されているソーシャルアクティビティに参加することもできました。私は、せっかくの機会なので、近くにあるLuccaという中世の城郭都市へのツアーやワイナリーツアーに参加しました。さらに、これまでにも何度か開催されてきMarine MicrobiologyのGRCでは、水曜日の自由時間にはサッカーをするのが恒例になっているということで、もちろん参加して来ました。160人程度の参加者なので、大した人数は集まらないのではと思いきや、グランドに行ってみたら40人以上集まっていてビックリ。しかも、女性も10人近くいたのには文化の違いを感じました。昼間の炎天下でヘロヘロになりましたが、各国、老若男女入り混じってかなり楽しかったです。イギリス人の女の子がとても上手だったので、「いつもやってるの?」と聞いたら「このくらい普通でしょ」との返事が。

城郭都市ルッカ
ワイナリーツアー
ワイナリーツアー
恒例のエンジョイサッカー

Gordon Research Conference

7月の第一週、Gordon Research Conferenceに初めて参加してきました。良い会議だと話は聞いていたのですが、これまでなかなか参加する機会がありませんでした。実際に参加してみると噂に違わない素晴らしい内容で、充実した楽しい一週間でした。

GRCは、アメリカの非営利団体、あるいはその団体が開催を支援する科学会議の名称で、自然科学の様々な分野についての年間300件以上のGRCが開催されています。今回私が参加したのは”Marine Microbiology“のGRCで、イタリアのピサ市からさらに車で1時間ほどのところにある山間のリゾートホテルで開催されました。通常の国際会議やシンポジウムと違うのは、特定のテーマについての一線級の研究者を招待し、若手、中堅研究者と一緒に、現在進行中の研究や未だ論文になっていない最新の研究結果について議論がなされる点で、米国や欧州の研究動向や今後のトレンドが見えてきます。若手研究者にとっては、関連分野の中心的な研究者と親しくなれる絶好の機会でもあります。このような会議を実現するため、GRCでは、非公開、比較的少人数(100-200人)、合宿形式、要旨集を作成しない、参加選考をする、参加者全員に発表させるといったユニークな会議ポリシーで運営されています。もちろん会議の内容をSNSに投稿することも禁止です。

私自身は、シニアな研究者の中に2−3人の知り合いがいるだけで、ほとんどは初対面の研究者ばかりでした。朝昼晩と三食をホテルで一緒に食事するので、ほぼ毎回名乗って握手してから食事開始といった感じで、最初はストレスですが、慣れると結構楽しくなります。ランチ後から夕方4時までは自由時間で、その間プールで泳いだり、サッカーしたり、観光したりといった感じで5日間を過ごすので、参加者同士でかなり親しくなることができます。ちょうどW杯の決勝トーナメント期間中でしたので、サッカー話も結構盛り上がりました。日本代表も決勝トーナメントに進んでベルギーと素晴らしい試合をしてくれましたので、日本代表に感謝です!惜敗した翌日はかなり慰められました。研究の世界でも人的なネットワークは何よりの財産です。例えば、論文掲載の可否は、同じ分野の研究者による相互査読によってが決まりますが、微妙な判断となった時に、著者が「知らない東洋人」か「GRCで一緒にサッカーした日本人」かで採否に影響することも十分にあり得ます。ただ、こうした実利を抜きにしても、様々な国とバックグランドを持つ同好の研究者と1週間を共に過ごす経験は、とてもエキサイティングで冒険心や探究心を大いに満たしてくれるものですので、自分の周辺の特に若手研究者には参加を強く勧めたいと思いました。次は2年後にイタリアかスイスでの開催となりそうです。