連休前に、長崎大学の阪倉研究室を訪問して、魚類腸内細菌叢研究のための施設見学と打ち合わせをしてきました。
博士課程のMaiさんのテーマとして、魚類の行動生態研究が専門の長崎大学阪倉教授の協力で、フグの腸内細菌叢を調べています。フグは、美味な高級魚であると同時に、テトロドトキシンという猛毒を持つ魚としてよく知られていますが、他にも色々とユニークな特徴を持つお魚です。腸内細菌叢がどんな特徴を持っているのか?魚との関係は?他のお魚とはちょっと違う特徴が見えると面白いですが、解析結果に期待です。
東京大学大気海洋研究所 微生物グループ Microbial Oceanography lab, aori utokyo
スプーン一杯の海水から探る地球環境 Explore the microbial world in a drop of seawater
連休前に、長崎大学の阪倉研究室を訪問して、魚類腸内細菌叢研究のための施設見学と打ち合わせをしてきました。
博士課程のMaiさんのテーマとして、魚類の行動生態研究が専門の長崎大学阪倉教授の協力で、フグの腸内細菌叢を調べています。フグは、美味な高級魚であると同時に、テトロドトキシンという猛毒を持つ魚としてよく知られていますが、他にも色々とユニークな特徴を持つお魚です。腸内細菌叢がどんな特徴を持っているのか?魚との関係は?他のお魚とはちょっと違う特徴が見えると面白いですが、解析結果に期待です。
10/4~10/14で大槌センターに行ってきました。文科省プロジェクトでの自動分析装置開発もいよいよ最終年度となりました。大槌での実証試験を重ねてきた自動サンプリング装置ATGC12は、完成度も高まり、実践配備間近といった感じです。これまでは、サケをターゲットにして春先にテストしてきましたが、今回は台風の中でのサンプリングを目指してこのタイミングでのテストとなりました。残念ながら、そう都合よく台風は来ませんでしたが、低気圧の通過でちょっとした嵐は捉えることができました。サンプルの分析結果を楽しみにに待ちたいと思います。ちなみに、なぜ台風かはまた別の機会に説明できればと思います。今回は時間的に余裕があったので、海水サンプルからバクテリアの分離培養のためのプレーティングをやりました。コロニーをピックアップして、次のインターンシップで同定したいと思います。
9月19日(月)の早朝に予定されていた「よこすか」航海の出港が、台風14号の影響で21日に延期となり、プラス2日のホテル隔離を余儀なくされていたところ、高知新聞の記者の方から「波の花」についての問い合わせのメールがありました。台風14号の影響で高知県内も風雨に見舞われたが、県有数の景勝地の桂浜で「波の花」が広範囲に発生したとのことで、大量の波の花が打ち上がり風で吹き上がる様子の写真が送られてきました。隣接する桂浜水族館の周辺が泡だらけになっている様子がNHKのWebニュースにもなっていました。どうしてこうなったのか。ネット上でいろいろな情報に当たるうちに「波の花」のサンプリングを行う様子を掲載しているこのページに行き着いたということで、「波の花」とは何で、どういう条件で発生するのか、また今回の桂浜の様子についての見解を教え欲しいとのことでした。そこで、以下のような内容を返答しました。後日掲載された高知新聞の記事では、わずか2行程度にまとめられていますので、全文をアップしておきます。
「波の花」とは何?
「波の花」は、海水が激しく攪拌されることによって生じた「泡」が集積したものです。お風呂に石鹸水を加えて作るバブルバスとか、川に洗剤が大量に流れ込んで発生する泡と基本的には同じ原理です。「波の花」現象で石鹸や洗剤(界面活性剤と呼ばれます)の役割を果たすのは、海水中に溶けている有機物です。水を激しく攪拌すると空気が取り込まれて泡が発生しますが、通常はすぐに弾けて消えてしまいます。しかし、海水中に高濃度の有機物が溶けていると、その界面活性作用によって泡が消えにくくなり、そのまま海岸に打ち寄せられて大量に集積することになります。
どんな条件で発生する?
上記メカニズムなので、発生しやすい条件は、(1)海が激しく攪拌されること(2)海水中の有機物濃度が高いこと、基本的にはこの2点が発生条件として必要と考えられます。(1)は風と波の気象条件によります。加えて、海岸の地形、例えば砂浜などフラットな地形よりも岩場など起伏の激しい地形の方が撹拌されやすいのでより泡ができやすいと考えられます。(2)については、海水中に溶けている有機物を作っているのは、水中の植物プランクトン(光合成をする単細胞の藻類)と、海岸近くに繁茂している海藻類(アラメ、カジメ、アオサなど)ですので、これらが大量にいる場所やタイミングということになります。
海藻が良く繁茂している場所や季節では、海藻が出す有機物(主に多糖類)によって、海水中の有機物濃度が高くなり、そうした場所で強風が吹くと発生しやすくなります。そのほか、影響はさほど大きくないかもしれませんが、水の温度が低下すると粘性が上昇して泡が消えにくくなりますので、夏より冬の方が発生しやすいと推測されます。私たちが冬の能登半島で観測している「波の花」はこうした要因で発生していると考えています。
その他、赤潮のように一時的に植物プランクトンが大量発生した場合にも、その細胞から分泌されたり、細胞そのものが壊れたりして、大量の有機物が水中に出てくることになり、「波の花」が発生しやすい条件になります。海外では植物プランクトンの大量発生による波の花の発生が報告されていますが、日本で赤潮と波の花が同時に発生した例があるか知りません。
今回の桂浜のケースでは、台風によって強風が吹き荒れたことが要因であることは間違いありませんが、同時に何らかの原因で海水中の有機物濃度が高かったことが、「波の花」の発生につながったと考えられます。有機物濃度が高い原因が、プランクトンの大量発生なのか、周辺の海藻の繁茂によるものなのかはわかりません。これまで見たことが無いとのことですので、これまでなかったような強い風波による撹拌があったか、たまたまプランクトンの大量発生と重なったのかもしれません。
今年の深海海洋保護区の調査では、有人潜水艇「しんかい6500」の母船「よこすか」に乗船して小笠原諸島の西側に位置する西七島海嶺周辺海域に行ってきました。予定では9/19に横須賀のJAMSTEC岸壁を出港するはずでしたが、台風の影響で9/21に出港し9/28に戻ってきました。コロナ対策のために乗船4日前からホテルで隔離生活でしたので、出港延期で長いホテル生活となってしまい乗船日数よりも随分と長く感じた航海でした。出港してからも次々に発生する台風を避けつつの短い航海でしたが、なんとか目的のサンプルを採取して帰ってきました。今回は「しんかい6500」で潜航する機会はありませんでしたが、実際に母船に乗って運用しているところを見たのは初めてでしたので、色々と面白かったですし、勉強になりました。潜航した研究者によると、自らの目で直接見ると海底にある巣穴や、映像では視認が厳しそうなサイズの生き物、岩陰に隠れている生き物などがたくさん見えて、無人潜水艇のカメラで見るのとは違うということでした。次回はぜひ潜航してみたいものです。
文科省プロジェクトで開発中の自動採取・分析装置の実証試験のために3/25-31で大槌センターに行ってきました。開発開始から4年が経過し、現場での実証試験も3回目となりました。今年は、2台体制でこれまでの係船場に加えて地先の海象ブイへの係留も行いました。途中で強風警報が発令されて、夜のサンプリングがキャンセルとなるなどしましたが、概ね予定通り試験を終えることができました。装置の完成度も上がって、複雑な濾過シーケンスも順調にこなすなど、信頼性も高まってきました。自動抽出ユニットも順調に稼働しましたので、次回は自動PCR用のマイクロデバイスを組み込んだ最終版の試験を行う予定です。
大幅改造で生まれ変わった「白鳳丸」の慣熟航海に乗船してきました
我が国を代表する研究船「白鳳丸」ですが、建造から30年を経過して老朽化が指摘されてました。新たな白鳳丸の建造はなかなか難しかったのですが、関係者の努力により、エンジン4台の交換やウインチの増設などの大改造が実現しました。これであと20年は活躍してくれそうです。エンジンを全交換したおかげで、スピードと静粛性がアップして、以前にも増して使い勝手が良さそうです。航走速度がアップすると、観測点までの到達時間が短くなり、その分長く滞在して観測することができますので、研究者にとっては重要です。見た目や内装はほとんど変わっていませんが、煙突に排気処理装置が付いたために四角い形となりました。鹿児島を出港して、東シナ海を南下しながら屋久島沖、沖縄本島沖で観測して、太平洋側に抜けてから琉球海溝で観測して再び鹿児島に戻りました。2/20から3/3までおよそ2週間の航海でした。
今年も波の花サンプリングに行ってきました。
前週までの大雪が嘘のような晴れ続きで、しかも到着の翌日にタイミングよく波の花が取れるという例年になく順調な滑り出しでした。それ以降も波の花が発生して2回のサンプリングができました。今回は、高見研究員のアイデアで、波の花の酵素活性測定やそれらの生産菌の分離も行いました。今後の研究の新たな展開が期待できる良い材料を得ることができました。帰る日から再び雪が降り始めましたので、今回はなんともタイミングの良い調査となりました。
今年の波の花
酵素活性検出のためのプレートアッセイ(写真:高見英人博士)
今年も深海海洋保護区の調査のために、「かいめい」に乗船して小笠原諸島の西側に位置する西七島海嶺周辺海域に行ってきました。10/12に横須賀のJAMSTEC岸壁を出港して10/25に戻ってきました。昨年は小笠原で下船しましたが、今回はそうした寄港はなく残念でした。調査の方はとても順調で、良い航海でしたが、すでに全国的に陽性者が激減していた時期だったにも関わらず、コロナ対策として乗船1週間前からホテルで隔離生活を余儀なくされたのには閉口しました。昨年とは違う海山でサンプリングできましたので、さらにデータを加えて解析できそうです。ちなみに、昨年12月に初めて指定された沖合海底域いわゆる深海底の海洋保護区は4箇所、伊豆・小笠原海溝、中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部、西七島海嶺、マリアナ海溝北部となっています。
メタゲノム解析用の堆積物サンプリング
環境省資料より
8月最初の週に広島大に行ってきました。1ヶ月ほど前に来年度の研究費申請のための計画をいろいろ思案しているうちに、簡単な予備実験を思いつきました。私たちは、微生物活動がエアロゾルや雲核生成過程にどう影響するかをテーマに研究を行っています。例えば、微生物分解によって有機物の化学形態が変わりますが、そうした変化は有機物を含むエアロゾルの雲核生成能(CCN活性)に影響するのか?というのが基本的な疑問です。まずは、基質とその分解産物をそれぞれエアロゾル化してCCN活性を測定すれば一つの答えが出ます。ということで、どうしても確かめておきたくなり、エアロゾル発生装置と雲凝結核活性測定装置のある共同研究者のところに押しかけたというわけです。心配していたトラブルもなく、なんだか予想以上にそれらしいデータが取れて大満足でした。最終日には大崎下島のMitarai Baseで今後の打ち合わせをして帰ってきました。御手洗地区は、江戸時代に、風待ち潮待ちの港町として栄えた町ということで、商家、茶屋、船宿など当時の風情が今でも残されています。お米屋さんの店舗兼住宅だったというMitarai Baseもそうした町並みの中にある素敵な建物で、海を望む部屋で心地よい潮風を受けながらの贅沢なミーティングでした。
広島大学
エアロゾル発生装置とCCNカウンター
MitaraiBase
高部由季特任研究員が、大槌湾や宇和海で分離した好気性光合成細菌のドラフトゲノムを、米国微生物学会が発行するMicrobiology Resource Announcement誌で公開しました。
酸素非発生型好気性光合成細菌 (Aerobic Anoxygenic Phototrophic Bacteria, AAnPB) は、海洋表層に普遍的に分布し、増殖速度が速いため、微生物ループを介した炭素循環におけるキープレイヤーとして重要です。今回ゲノムを解読したのは、岩手県大槌湾の海水から分離培養したRoseobacter sp. OBYS 0001株と、愛媛県愛南町の真鯛養殖いけす周辺の海域から分離したJannaschia spp. AI_61とAI_62株です。
Roseobacter sp. OBYS 0001株は、16S rRNA遺伝子の配列相同性(100%)からR. litoralisと考えられます。この株は、高部博士のこれまでの研究(Sato-Takabe et al., 2012; 2014)で、光合成に関する生理的性状が詳しく調べられています。今回のゲノムデータは、それらの性状がどのような遺伝的機能によって維持されているのかや、他の光合成細菌との進化系統学的な関係がどうなっているのかなどを明らかにする研究に利用されることになります。
一方、愛南町の養殖いけす周辺海域には、上記AAnPBが通年で分布し、時に全菌数の24%超を占めることがわかっています(Sato-Takabe et al., 2016; 高部, 2020)。Jannaschia spp. AI_61とAI_62株のゲノムデータは、魚類養殖場の低次生態系を構成する主要メンバーの遺伝的機能を明らかにする意味で重要です。また、Jannaschia属として現在記載されている12種のうち、光合成能が確認されているのは2種しかありません。今回のAI_61とAI_62株は、最近縁種との16S rRNA遺伝子配列相同性(96.53%)から、本属の新種の可能性もあり、新たな光合成能をもつJannaschia属の株として、比較ゲノム解析をすると面白そうです。
好気性光合成細菌についてさらに詳しく知りたい方は、高部博士の総説をぜひご一読ください