台風で「波の花」?@高知県桂浜

9月19日(月)の早朝に予定されていた「よこすか」航海の出港が、台風14号の影響で21日に延期となり、プラス2日のホテル隔離を余儀なくされていたところ、高知新聞の記者の方から「波の花」についての問い合わせのメールがありました。台風14号の影響で高知県内も風雨に見舞われたが、県有数の景勝地の桂浜で「波の花」が広範囲に発生したとのことで、大量の波の花が打ち上がり風で吹き上がる様子の写真が送られてきました。隣接する桂浜水族館の周辺が泡だらけになっている様子がNHKのWebニュースにもなっていました。どうしてこうなったのか。ネット上でいろいろな情報に当たるうちに「波の花」のサンプリングを行う様子を掲載しているこのページに行き着いたということで、「波の花」とは何で、どういう条件で発生するのか、また今回の桂浜の様子についての見解を教え欲しいとのことでした。そこで、以下のような内容を返答しました。後日掲載された高知新聞の記事では、わずか2行程度にまとめられていますので、全文をアップしておきます。

「波の花」とは何?

「波の花」は、海水が激しく攪拌されることによって生じた「泡」が集積したものです。お風呂に石鹸水を加えて作るバブルバスとか、川に洗剤が大量に流れ込んで発生する泡と基本的には同じ原理です。「波の花」現象で石鹸や洗剤(界面活性剤と呼ばれます)の役割を果たすのは、海水中に溶けている有機物です。水を激しく攪拌すると空気が取り込まれて泡が発生しますが、通常はすぐに弾けて消えてしまいます。しかし、海水中に高濃度の有機物が溶けていると、その界面活性作用によって泡が消えにくくなり、そのまま海岸に打ち寄せられて大量に集積することになります。

どんな条件で発生する?

上記メカニズムなので、発生しやすい条件は、(1)海が激しく攪拌されること(2)海水中の有機物濃度が高いこと、基本的にはこの2点が発生条件として必要と考えられます。(1)は風と波の気象条件によります。加えて、海岸の地形、例えば砂浜などフラットな地形よりも岩場など起伏の激しい地形の方が撹拌されやすいのでより泡ができやすいと考えられます。(2)については、海水中に溶けている有機物を作っているのは、水中の植物プランクトン(光合成をする単細胞の藻類)と、海岸近くに繁茂している海藻類(アラメ、カジメ、アオサなど)ですので、これらが大量にいる場所やタイミングということになります。

海藻が良く繁茂している場所や季節では、海藻が出す有機物(主に多糖類)によって、海水中の有機物濃度が高くなり、そうした場所で強風が吹くと発生しやすくなります。そのほか、影響はさほど大きくないかもしれませんが、水の温度が低下すると粘性が上昇して泡が消えにくくなりますので、夏より冬の方が発生しやすいと推測されます。私たちが冬の能登半島で観測している「波の花」はこうした要因で発生していると考えています。

その他、赤潮のように一時的に植物プランクトンが大量発生した場合にも、その細胞から分泌されたり、細胞そのものが壊れたりして、大量の有機物が水中に出てくることになり、「波の花」が発生しやすい条件になります。海外では植物プランクトンの大量発生による波の花の発生が報告されていますが、日本で赤潮と波の花が同時に発生した例があるか知りません。

今回の桂浜のケースでは、台風によって強風が吹き荒れたことが要因であることは間違いありませんが、同時に何らかの原因で海水中の有機物濃度が高かったことが、「波の花」の発生につながったと考えられます。有機物濃度が高い原因が、プランクトンの大量発生なのか、周辺の海藻の繁茂によるものなのかはわかりません。これまで見たことが無いとのことですので、これまでなかったような強い風波による撹拌があったか、たまたまプランクトンの大量発生と重なったのかもしれません。