窒素固定研究プレスリリース

7月9日(月)一昨年までJSPSの特別研究員として微生物分野で一緒に研究していた塩崎拓平さん(JAMSTEC研究員)の亜熱帯海域の窒素固定に関する論文”Linkage between dinitrogen fixation and primary production in the oligotrophic South Pacific Ocean”がGlobal Biogeochemical Cycles誌に受理されました。大気海洋研究所と関係機関からプレスリリースしました。

海の窒素固定者として良く知られているのは、トリコデスミウムという藍藻類の一種ですが、近年になってそれ以外にも多様な窒素固定生物が少なからず存在していることが明らかになってきました。この研究では、南太平洋の亜熱帯海域でトリコデスミウムが主要な窒素固定者となっている海域と、UCYN-Aと呼ばれる微細藻類に細胞内共生する藍藻が主要な海域を比較して、窒素固定生物の違いが海洋の窒素循環や基礎生産の変動を左右する要因となりうることを示しています。亜熱帯海洋生態系は、「窒素固定=光合成生産の増加」といった単純なものではなく、もう少し複雑な仕組みで動いているようです。

 

新種記載 Amylibacter kogurei sp. nov.

特任研究員のWongさんが主著の新種記載論文がInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology誌に受理されました。彼女の研究対象である海表面マイクロレイヤー(Sea surface microlayer)から分離した菌株でアルファプロテオバクテリア綱の一種です。神奈川県の三崎市にある東京大学の臨海実験施設に滞在して、油壷湾のSMLサンプルから分離したものです。これまで海洋微生物研究を牽引して来られ、今春に退職された木暮一啓先生に敬意を表して、そのお名前を種名とさせていただきました。

同属の記載種がほとんどなかったことから、新種記載をすることにしたのですが、投稿直前になって、16SrRNA遺伝子配列の相同性が99%という非常に近縁な株が記載されてしまい、一時はお蔵入りも覚悟しました。その後、気を取り直してDNA-DNAハイブリをやってみると、幸いにも相同性が53%しかなく、無事に別種として記載することができました。一般的には、16SrRNA遺伝子配列の相同性が97%以下であれば、別種の可能性が高いとされていますが、97%以上でも別種のケースがあることを実感することができました。環境サンプルのアンプリコン解析などでは、種数や多様性推定の配列クラスタリングにおける基準として97%が広く用いられています。今回のケースは、97%という基準値でのクラスタリングが種数推定値の最低ラインを意味していることを示唆しています。

Taxonomic description of Amylibacter kogurei sp. nov., a novel marine alphaproteobacterium isolated from the coastal sea surface microlayer of a marine inlet

Shu-Kuan Wong, Susumu Yoshizawa, Yu Nakajima, Marie Johanna Cuadra, Yuichi Nogi, Keiji Nakamura, Hideto Takami, Yoshitoshi Ogura, Tetsuya Hayashi, Hiroshi Xavier Chiura, and Koji Hamasaki

NJ tree based on 16S rRNA gene sequences

電力中央研究所

6月24日(日)は、千葉県我孫子市にある電力中央研究所、通称電中研にてサッカー部の練習試合でした。電中研は電力会社のお金で運営されている財団法人で、電気事業に関わる様々な研究を行なっている研究所です。発電技術に直接関わる研究だけでなく、発電という巨大インフラ事業が周辺環境に及ぼす影響に関わる研究として、大気や海洋を含む環境科学研究も広く行われているため、私たちの研究所とも関係の深い研究所です。距離的にも近いので、これからも定期的にサッカーを通じて交流していきたいと思います。

プランクトンから雲ができる?

名古屋大学の永尾一平先生との共著論文が出版されました。三陸沖の親潮海域で、植物プランクトンの増殖とジメチルスルフォニオプロピオネイト(DMSP)、その分解産物である硫化ジメチル(DMS)の生成量との関係を報告しています。2012年に退役した学術研究船淡青丸航海による研究成果です。エルゼビアのShared Linkから50日間は無料でダウンロードできます。

Nagao, Ippei, et al. “Biogenic sulfur compounds in spring phytoplankton bloom in the western North Pacific off the coast of northern Japan.” Progress in Oceanography (2018)

DMSPは、植物プランクトンによって生成される有機硫黄化合物の一種です。その分解産物であるDMSは、海洋から大気に放出される生物起源の主要な含イオウ気体であり、大気中で酸化されて硫酸エアロゾルとなり雲の凝結核を形成します。つまり、海洋で植物プランクトンが増えると、海洋から大気へのDMSの放出量が増えて、雲の形成を促進することになります。気候が変化して環境が変わると、海洋生物や生態系は様々な影響を受けますが、反対に海洋生態系における生物活動の変化が、気候システムに影響を及ぼすこともあるのです。このように、海洋生態系と気候システムの間に存在する様々な相互作用プロセスによって、現在の地球環境が作られ、維持されていると考えられています。

海洋細菌群集は、DMSPからDMS への変換、DMSPの同化、DMSの酸化といった、複数の過程でDMSの大気放出に関わっています。私たちの研究室では、太平洋を横断する航海に参加して、こうしたDMSP の変換やDMSの生成に関わる細菌機能群の動態を解析し、その分布とDMSとの関係を報告しています。

Cui, Yingshun, et al. “Abundance and distribution of dimethylsulfoniopropionate degradation genes and the corresponding bacterial community structure at dimethyl sulfide hot spots in the tropical and subtropical pacific ocean.” Applied and environmental microbiology 81.12 (2015): 4184-4194

 

パナマのサンゴ礁研究

Azam研究室の学生のRyanと2013年から進めてきた研究が、ISME Journal電子版に掲載されました!サンゴの一斉産卵イベントに、海の細菌群集はどう応答するのか?というのがテーマです。

Guillemette, Ryan, et al. “Bacterioplankton drawdown of coral mass-spawned organic matter.” The ISME Journal (2018)

パナマのカリブ海に面した臨海実験施設にRyanが滞在し、サンゴの一斉産卵イベントに合わせてマイクロコズム実験を行った結果、卵や粘液からなる大量の有機物はわずか3日ほどで細菌群集にほとんど分解されてしまうことがわかりました。思った以上に活発で早い応答です!因みに、大量の有機物の除去に最も活躍してたのは、ロドバクター科の細菌グループでした。サンゴ礁の海を綺麗に保つ仕組みが、こういったところにもありそうです。当研究室では、BrdUを使った細菌生産測定と、活性細菌の特定に協力しました。パナマの施設ではRIが使えないということで、BrdU法が活躍しました。免疫分取とシーケンスを担当したボスドクの金子さん(現極地研)が第二著者です。

北極研究プレスリリース

5月23日(水)一昨年までJSPSの特別研究員として微生物分野で一緒に研究していた塩崎拓平さん(JAMSTEC研究員)の北極海の窒素固定に関する論文”Diazotroph community structure and the role of nitrogen fixation in the nitrogen cycle in the Chukchi Sea (western Arctic Ocean)”がLimnology and Oceanography誌に受理されました。北極海研究はホットなトピックですので、大気海洋研究所とJAMSTECからプレスリリースしました。

いくつかのメディアに取り上げていただきました。

日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP480434_T20C18A5000000/

環境展望台

http://tenbou.nies.go.jp/news/jnews/detail.php?i=24162

財経新聞

https://www.zaikei.co.jp/article/20180527/444034.html