Ocean Science Meeting 2020

2/1621の日程でサンディエゴで開催されたOcean Science Meetingに参加してきました。この会議は、米国地球物理学連合(AGU)、陸水海洋科学協会(ASLO)、海洋学会(TOS)という3つの米国の学会団体が合同で、2年に一回開催するもので、海洋科学に関する学会大会としては最大級のものです。大会ツイッターの情報によると、参加者数は66カ国から6300名(うち学生が32%)、ポスター発表3244件、口頭発表1820件、コーヒー消費量は1530ガロン!

口頭発表は、並行して20近いセッションがあるので、プログラムをチェックするだけで一苦労ですが、そこは専用のアプリを使うとマイスケジュールを作成し、スマホ片手にスマートに移動できます。ポスター会場も巨大なので、これもスマホアプリでポスターの位置をピンポイントで特定しながら回ることになります。なんだか隔世の感がありますね。

微生物分野からは、ポスドクの菅井くんがマイクロレイヤーにおけるCOの生成と消費に関する研究について、大気ー海洋相互作用のセッションで口頭発表しました。私自身の発表はありませんでしたが、大気ー海洋相互作用のセッションのほか、微生物動態のセッションや物質循環のセッションなどに参加しました。質量分析計やNMRの高性能化による化学物質の同定、特に有機物の化学種の同定技術が急速に進んでおり、各種Omicsによる生物側の機能解析との融合がますます進みそうです。これからの研究展開の鍵になってくるでしょう。今回は、久しぶりの参加でしたが、この学会は微生物も含めて生物、化学系の発表が非常に多く、この研究分野の裾野の広さを改めて実感しつつ、研究のモチベーションを高めて帰ってきました。

口頭発表セッションの会場

ポスター会場の入り口

アートとサイエンス

会場のコンベンションセンター周辺のお店には歓迎の張り紙が

サンディエゴには60以上のマイクロブルーワリーがあるらしい

金曜日の夜

招聘教授が来日

12/7から3ヶ月の予定で韓国の浦項にある韓東大学教授の都先生が滞在されています。都教授は、海洋微生物の分類、生態、生理活性物質生産に関する専門家で、特に海洋細菌の分離培養に関する豊富な知識と経験のある先生です。1989 ~ 1995年に大学院生として、旧海洋研究所でフグ毒産生細菌に関する学位研究をされました。その後も中野本所や大槌の国際沿岸海洋研究センターに客員教員として 滞在されています。今回の招聘では、フグ毒産生細菌に関する研究の未解明課題について議論しています。1/23には、大学院生などに向けて特別セミナー「フグ毒研究の流れと今後の展開に向けて」を行いました。

波の花サンプリング in 能登

今シーズンも波の花サンプリングに行って来ました。

今回は12月20日から24日まで、いつもの金沢大学能登臨海実験施設に滞在して、曽々木海岸でのサンプリングでした。20日の金曜日の午前中に到着すると、「今日は風向きもいいし出てるんじゃない」ということで、早速午後から出かけました。行ってみると、すでに時化が収まりつつあったようで、いわゆる「波の花」状態はありませんでしたが、岩場にわずかに溜まった泡をかろうじてとることができました。翌日からは穏やかな天気で「波の花」は全く出ず……最終日にようやく少し風が吹きそうな予報でしたので、夜明けと共に出かけて行き、少しだけ取ることができました。午後のフライトに間に合うようにと、最後はバタバタでした。

岩場に少しだけ発生

とれたて波の花

泡がなくなると泥水状態に

TEP測定用に染色

 細菌の分離作業

1週間後くらいからコロニーが出現

面白そうな菌をピックアップ

国際水圏メタゲノムシンポジウム

1123日と24日の2日間、北里大学で開催された国際水圏メタゲノムシンポジウムで講演してきました。私の発表は、先日出版されたMarine Metagenomicsに掲載したHiCEP法による微生物群集トランスクリプトーム解析(Fujimura et al. 2019)に関する内容です。私は初日の午前中早々の登壇でしたので、緊張の時間はすぐに終わって、あとはゆっくりとシンポジウムを楽しむことができました。シーケンスのスループット上昇は止まるところを知らず、どこまでも「安く、早く」なる一方ですが、結局のところ研究の良し悪しを決めるのは、アイデアとデザインだということを改めて認識しました。2日目の午後には、真核生物のイントロンと遺伝子組み換え技術の発見で1993年にノーベル医学・生理学賞を受賞されたリチャード・ロバーツ博士によるBacterial Methylomes と題する講演があり、「バクテリアの生命システムを完全に解明したい」と今だに好奇心旺盛に現役で研究されていることにとても刺激を受けました。講演後のパネルディスカッションで、ロバーツ博士が、遺伝子組換え技術に対する必要以上の危険性を煽るような行き過ぎた反対キャンペーンが、世界的な食料や健康問題解決のための技術的可能性を奪っていることに対する深い懸念を示されていたのが印象的でした。(あとで調べたら、「GMO(遺伝子組換え生物)を支持するノーベル賞受賞者からの書簡」「グリーンピース、国連、そして各国政府指導者へ」という声明が2016629日に出されており、これを主導したのがロバーツ博士のようです。)2日間を通じて、メタゲノム解析が微生物動態解析の強力なツールとなっていることを実感したシンポジウムでしたが、同時にメタゲノムデータをどう使って、どう料理するのか、解析のセンスと腕がより問われるようにもなっています。美味しくなるか、不味くなるかは、素材だけでなくて料理の腕も大事ということでしょうか。

北里研究所@白金

日本の細菌学の父 北里柴三郎博士の胸像

 

白鳳丸世界一周航海 〜ハワイ沖で藍藻ブルームに遭遇

1026日ハワイ入港当日、オアフ島に近づいてホノルル入港まで2-3時間といったあたりで、甲板に出てふっと海面を見ると、何やら茶色い木屑のような固まりが漂っています。ん!!急いで舷側に寄って覗きこむと、前進する船の前方から後方に向かってかなり広範囲に流れていきます。どうやら、窒素固定性藍藻類トリコデスミウムのブルームのようです。トリコデスミウムは亜熱帯の貧栄養海域、特に島の近くで大増殖してブルームを形成することが知られており、綺麗な青い海に茶色い縞模様を作っている写真が教科書にも良く載っています。多くの植物プランクトンは、窒素源として硝酸塩やアンモニウム塩を増殖に必要としますが、亜熱帯外洋域の表層にはこれらの栄養塩がほとんどありません。トリコデスミウムは、空気中にたくさん存在する窒素ガスを直接利用できる窒素固定酵素を持つため、普通の植物プランクトンが増殖できない亜熱帯外洋域でも増殖することができます。2年前の白鳳丸航海でもハワイ沖のゾディアック観測時にトリコデスミウムのブルームにあたり、ちょうど同じような感じでしたので、まず間違いないのではないかと思います。

ハワイ沖で遭遇した(おそらく)藍藻ブルーム

白鳳丸世界一周航海 〜30年ぶり2度目

1016日、白鳳丸の世界一周航海が始まりました。少し変則的ですが、1989年以来30年ぶり2度目の世界一周航海となります。

横須賀港を出航して、まずは10日間ほどで太平洋を横断してハワイのホノルル港を目指します。さらに、10日間ほど東へ向かいチリ沖の西経90度ラインを観測して11月中旬にバルパライソ港に入港します。バルパライソから再び西経90度ラインを南下して、12月中旬にチリ南端のプンタアレナス港に入港します。生物化学系の研究チームはここで下船して、地質系の研究チームに交代します。彼らを乗せた船は、お正月を洋上で過ごしつつ南極海の大西洋セクターで観測し、1月中旬に南アフリカのケープタウンに入港します。次は物理系の研究チームが乗船して、南極海のインド洋セクターの観測です。2月の中旬にオーストラリア西岸のフリーマントルに到着し、ここで研究者は全員下船します。船はそのまま東周りで東京まで航走して35日に帰港する予定です。ちなみに、前回は太平洋、大西洋、地中海を横断し、パナマ運河、スエズ運河を通過するという、文字通りの世界一周航海でした。私は大学院入学前年で、惜しくもこの航海に参加することができませんでしたので、今回こそはと思っていたのですが

タイミングが悪く、ハワイまでのわずか10日間だけの乗船となりました。返す返すも残念です。

 JAMSTEC岸壁の見送り

 横須賀港出航

 ホノルル港出航

久しぶりの豊潮丸航海

広島大学の練習船「豊潮丸」の研究航海(7/8-12)に乗船してきました。かつて広島大学に勤務していた時には、瀬戸内海を中心として毎年のように調査や実習航海でお世話になっていましたが、東大に異動してからは長らく乗船していませんでした。現在の船は、私が異動した直後に新造された4代目「豊潮丸」で、3代目と比べて格段に良くなったとの噂で、予てから乗船してみたかったのですが、ようやく実現しました。小さいながらも充実した装備で噂に違わず良い船でした。

今回は、エアロゾル関連で共同研究している岩本先生からのお誘いで乗船し、ポスドクの菅井さん、学生の野村さんと一緒にゾディアックでの海表面マイクロ層のサンプリングを実施してきました。菅井さんと野村さんには、10月からの白鳳丸航海でゾディアックサンプリングのミッションがありますので、そのための良い予行演習にもなりました。今回はわずか1日の乗船でしたので、次回はもっとゆっくり乗船したいと思ってます。

 4代目「豊潮丸」

 ゾディアックでのサンプリング

集合写真

 

外洋域の微生物に備わるヒ素耐性

太平洋亜熱帯海域におけるリン、ヒ素の分布と微生物動態に関する論文”Arsenate and microbial dynamics in different phosphorus regimes of the subtropical Pacific Ocean.” がProgress in Oceanography誌にてオンラインリリースされました。東京海洋大学の橋濱先生の研究グループとの共同研究です。

北太平洋亜熱帯海域の西部では活発な窒素固定により、表層海水中のリン酸塩が消費され枯渇状態にあります。そうした海域の微生物にはヒ素耐性に関わる遺伝子がより多く備わっていることがわかりました。ヒ素取込みの影響を回避するための適応の結果と考えられます。ダストによる鉄供給が左右する窒素固定活性が、海域間での化学成分の違いにつながり、さらに微生物機能の違いにまで影響しているようです。地球環境と海洋の生物活動が密接にリンクしていることを示唆する好例だと思います。

日本地球惑星科学連合2019大会 & “GEOFUT 19”

今週は、幕張メッセで日曜日から木曜日まで開催れていた日本地球惑星科学連合(JpGU)の大会に参加してきました。JpGUは地球惑星科学関係の国内学会が集まって組織された連合組織です。自ら公益団体として春の大会運営やニュースレター、科学雑誌の発行を行っており、学問の細分化で多くの学会組織が乱立する状況でこれらを統合する組織として設立、運営され、大きな成功を収めている例だと思います。

私が所属している日本海洋学会も、2年ほど前から春と秋の2回の年次大会のうち春の大会はJpGUに合流する形で実施しています。私としては、生物系の発表が減ったのは残念なのですが、一方で大気化学やエアロゾルに関するセッションにも参加できるので非常にメリットを感じます。また、大会規模が大きいため、ポスターフロアーで展開されている企業展示やアウトリーチがとても充実しており、お祭り気分で楽しくうろうろできるのも魅力です。

水曜日の夜は、ポスドクの菅井くんと一緒に大会参加者向けのフットサルイベントGEOFUT 19に参加してきました。チームでも個人でも参加できるのですが、昨年と同じく海洋学会チーム「Oceanographers」でエントリーしました。女子とおじさんは得点すると2点なので、張り切って参加しましたが、残念ながらおじさんは得点できませんでした。それでも、女子が得点も含めた大活躍で、最終的には1勝2敗2分で終了しました。終了時間が遅かったので、みんなと一緒に飲みに行けなかったのが残念ですが、楽しいイベントでした。秋は、富山での大会なので、しっかり準備して(もちろん発表の)、サッカー好きメンバーとの再会を期したいと思います。

アンモニア酸化古細菌Shallow Marine Cladeの意外な分布

駿河湾におけるアンモニア酸化古細菌(AOA)の鉛直分布を調べた論文が公開されました。主著者は元特任研究員の伊知地稔博士です。アンモニア酸化に関わるamoA遺伝子をマーカーにして、qPCR法で計数したDeep Marine clade(DMC)とShallow Marine clade(SMC)の2つのエコタイプの特徴的な分布を報告しています。

アンモニア酸化古細菌は、海洋における硝化過程を担う鍵生物群ですが、日本周辺海域でその分布をきちんと調べた例はほとんどありません。そうした意味で貴重なデータですが、加えてフィルターによるサイズ分画によってAOAの多くは粒子付着性ではなく自由生活性であることを明らかにしています。また、一般にSMCとDMCは、そのネーミングの通りそれぞれ表層と中深層ではっきりとした住み分けが見られ、この論文でも自由生活性群集でその傾向が綺麗に見えています。面白いのは、粒子付着性群集のパターンです。SMCの割合が中深層でもそれほど低下せずDMCと同程度の割合を保っています。これは、粒子に付着したまま表層から運ばれている、あるいは中深層でも粒子中はアンモニア濃度が高いなどの理由でSMCが生残できるニッチとなっているといった理由が考えられます。粒子付着性AOAは数的にはマイナーですが、もっと詳しく調べると、これまで知られているAOAとは違った特徴が見えるかもしれません。次の研究の種が示されています。

Minoru Ijichi, Hajime Itoh and Koji Hamasaki (2019) “Vertical distribution of particle‑associated and free‑living  ammonia‑oxidizing archaea in Suruga Bay, a deep coastal embayment of Japan” Archives of Microbiology (https://doi.org/10.1007/s00203-019-01680-6)

論文へのリンクはこちら

本論文の観測に利用した淡青丸
淡青丸船内の研究室