「よこすか」航海2022

今年の深海海洋保護区の調査では、有人潜水艇「しんかい6500」の母船「よこすか」に乗船して小笠原諸島の西側に位置する西七島海嶺周辺海域に行ってきました。予定では9/19に横須賀のJAMSTEC岸壁を出港するはずでしたが、台風の影響で9/21に出港し9/28に戻ってきました。コロナ対策のために乗船4日前からホテルで隔離生活でしたので、出港延期で長いホテル生活となってしまい乗船日数よりも随分と長く感じた航海でした。出港してからも次々に発生する台風を避けつつの短い航海でしたが、なんとか目的のサンプルを採取して帰ってきました。今回は「しんかい6500」で潜航する機会はありませんでしたが、実際に母船に乗って運用しているところを見たのは初めてでしたので、色々と面白かったですし、勉強になりました。潜航した研究者によると、自らの目で直接見ると海底にある巣穴や、映像では視認が厳しそうなサイズの生き物、岩陰に隠れている生き物などがたくさん見えて、無人潜水艇のカメラで見るのとは違うということでした。次回はぜひ潜航してみたいものです。

環境DNAサンプラーATGC-12の実証試験@大槌センター

文科省プロジェクトで開発中の自動採取・分析装置の実証試験のために3/25-31で大槌センターに行ってきました。開発開始から4年が経過し、現場での実証試験も3回目となりました。今年は、2台体制でこれまでの係船場に加えて地先の海象ブイへの係留も行いました。途中で強風警報が発令されて、夜のサンプリングがキャンセルとなるなどしましたが、概ね予定通り試験を終えることができました。装置の完成度も上がって、複雑な濾過シーケンスも順調にこなすなど、信頼性も高まってきました。自動抽出ユニットも順調に稼働しましたので、次回は自動PCR用のマイクロデバイスを組み込んだ最終版の試験を行う予定です。

新生「白鳳丸」慣熟航海

大幅改造で生まれ変わった「白鳳丸」の慣熟航海に乗船してきました

我が国を代表する研究船「白鳳丸」ですが、建造から30年を経過して老朽化が指摘されてました。新たな白鳳丸の建造はなかなか難しかったのですが、関係者の努力により、エンジン4台の交換やウインチの増設などの大改造が実現しました。これであと20年は活躍してくれそうです。エンジンを全交換したおかげで、スピードと静粛性がアップして、以前にも増して使い勝手が良さそうです。航走速度がアップすると、観測点までの到達時間が短くなり、その分長く滞在して観測することができますので、研究者にとっては重要です。見た目や内装はほとんど変わっていませんが、煙突に排気処理装置が付いたために四角い形となりました。鹿児島を出港して、東シナ海を南下しながら屋久島沖、沖縄本島沖で観測して、太平洋側に抜けてから琉球海溝で観測して再び鹿児島に戻りました。2/20から3/3までおよそ2週間の航海でした。

新生「白鳳丸」
ニスキン採水器から配水作業中
船内の研究で濾過作業
アッパーデッキに設置したエアロゾルサンプラーからフィルターを回収
ゾディアックで海表面マイクロ層のサンプリング
波に揺られながらサンプルが溜まるのを待つこと2時間余

波の花サンプリング2021

今年も波の花サンプリングに行ってきました。

前週までの大雪が嘘のような晴れ続きで、しかも到着の翌日にタイミングよく波の花が取れるという例年になく順調な滑り出しでした。それ以降も波の花が発生して2回のサンプリングができました。今回は、高見研究員のアイデアで、波の花の酵素活性測定やそれらの生産菌の分離も行いました。今後の研究の新たな展開が期待できる良い材料を得ることができました。帰る日から再び雪が降り始めましたので、今回はなんともタイミングの良い調査となりました。

今年の波の花

酵素活性検出のためのプレートアッセイ(写真:高見英人博士)

「かいめい」航海2021

今年も深海海洋保護区の調査のために、「かいめい」に乗船して小笠原諸島の西側に位置する西七島海嶺周辺海域に行ってきました。10/12に横須賀のJAMSTEC岸壁を出港して10/25に戻ってきました。昨年は小笠原で下船しましたが、今回はそうした寄港はなく残念でした。調査の方はとても順調で、良い航海でしたが、すでに全国的に陽性者が激減していた時期だったにも関わらず、コロナ対策として乗船1週間前からホテルで隔離生活を余儀なくされたのには閉口しました。昨年とは違う海山でサンプリングできましたので、さらにデータを加えて解析できそうです。ちなみに、昨年12月に初めて指定された沖合海底域いわゆる深海底の海洋保護区は4箇所、伊豆・小笠原海溝、中マリアナ海嶺・西マリアナ海嶺北部、西七島海嶺、マリアナ海溝北部となっています。

 メタゲノム解析用の堆積物サンプリング

環境省資料より

エアロゾルから雲をつくる

8月最初の週に広島大に行ってきました。1ヶ月ほど前に来年度の研究費申請のための計画をいろいろ思案しているうちに、簡単な予備実験を思いつきました。私たちは、微生物活動がエアロゾルや雲核生成過程にどう影響するかをテーマに研究を行っています。例えば、微生物分解によって有機物の化学形態が変わりますが、そうした変化は有機物を含むエアロゾルの雲核生成能(CCN活性)に影響するのか?というのが基本的な疑問です。まずは、基質とその分解産物をそれぞれエアロゾル化してCCN活性を測定すれば一つの答えが出ます。ということで、どうしても確かめておきたくなり、エアロゾル発生装置と雲凝結核活性測定装置のある共同研究者のところに押しかけたというわけです。心配していたトラブルもなく、なんだか予想以上にそれらしいデータが取れて大満足でした。最終日には大崎下島のMitarai Baseで今後の打ち合わせをして帰ってきました。御手洗地区は、江戸時代に、風待ち潮待ちの港町として栄えた町ということで、商家、茶屋、船宿など当時の風情が今でも残されています。お米屋さんの店舗兼住宅だったというMitarai Baseもそうした町並みの中にある素敵な建物で、海を望む部屋で心地よい潮風を受けながらの贅沢なミーティングでした。

広島大学

エアロゾル発生装置とCCNカウンター

MitaraiBase

 

好気性光合成細菌のドラフトゲノム

高部由季特任研究員が、大槌湾や宇和海で分離した好気性光合成細菌のドラフトゲノムを、米国微生物学会が発行するMicrobiology Resource Announcement誌で公開しました。

酸素非発生型好気性光合成細菌 (Aerobic Anoxygenic Phototrophic Bacteria, AAnPB) は、海洋表層に普遍的に分布し、増殖速度が速いため、微生物ループを介した炭素循環におけるキープレイヤーとして重要です。今回ゲノムを解読したのは、岩手県大槌湾の海水から分離培養したRoseobacter sp. OBYS 0001株と、愛媛県愛南町の真鯛養殖いけす周辺の海域から分離したJannaschia spp. AI_61とAI_62株です。

Roseobacter sp. OBYS 0001株は、16S rRNA遺伝子の配列相同性(100%)からR. litoralisと考えられます。この株は、高部博士のこれまでの研究(Sato-Takabe et al., 2012; 2014)で、光合成に関する生理的性状が詳しく調べられています。今回のゲノムデータは、それらの性状がどのような遺伝的機能によって維持されているのかや、他の光合成細菌との進化系統学的な関係がどうなっているのかなどを明らかにする研究に利用されることになります。

一方、愛南町の養殖いけす周辺海域には、上記AAnPBが通年で分布し、時に全菌数の24%超を占めることがわかっています(Sato-Takabe et al., 2016; 高部, 2020)。Jannaschia spp. AI_61とAI_62株のゲノムデータは、魚類養殖場の低次生態系を構成する主要メンバーの遺伝的機能を明らかにする意味で重要です。また、Jannaschia属として現在記載されている12種のうち、光合成能が確認されているのは2種しかありません。今回のAI_61とAI_62株は、最近縁種との16S rRNA遺伝子配列相同性(96.53%)から、本属の新種の可能性もあり、新たな光合成能をもつJannaschia属の株として、比較ゲノム解析をすると面白そうです。

Sato-Takabe et al. (2021) Draft Genome Sequence of the Aerobic Anoxygenic Phototrophic Bacterium Roseobacter sp. Strain OBYS 0001, Isolated from Coastal Seawater in Otsuchi Bay, Japan

Sato-Takabe et al.  (2021) Draft Genome Sequences of Putative Aerobic Anoxygenic Phototrophic Bacterial Strains Jannaschia sp. Strains AI_61 and AI_62, Isolated from Seawater around a Coastal Aquaculture Area

好気性光合成細菌についてさらに詳しく知りたい方は、高部博士の総説をぜひご一読ください

高部由季
海の研究 2020年11月

OceanDNAテック2021動画公開

6月30日に渋谷キューズで開催したイベント「OceanDNAテック2021」が、おかげさまで盛況のうちに終了しました。当日はオンラインと会場でのハイブリッド開催でしたが、時節柄か渋谷駅直結という便利な会場立地にも関わらず圧倒的にオンライン参加の多いイベントとなりました。事前登録は300名超で、実際の参加は270名ほどでした。この手のワークショップとしては、まずまずの集客ではなかったかと思います。大学関係は3割ほどで、民間企業や一般の方に多く参加いただいたようですので、自動化技術の社会実装を目指すワークショップとしては良いアピールができました。

さらに広くアピールするために、録画した動画を公開しました。こうした動画を簡単に公開できるのは、オンラインワークショップならではですね。社会実装に向けて、引き続き情報発信を続けていきます。

OceanDNAテック2021 参加登録開始!

研究プロジェクトの成果を、いかにして社会実装するか。新しいチャレンジが始まります。このイベントは,環境中での生物動態をモニタリングするツールとして急速に発展しつつある環境DNA 解析技術について,海洋環境での利用に必要な技術や実践例を企業,行政,学術等の多様な業界の皆さまに広く知っていただくことを目的としています。

イベントウェブサイト:http://ecosystem.aori.u-tokyo.ac.jp/OceanDNAtech/

渋谷QWSイベントサイト:https://shibuya-qws.com/oceandnatech2021

参加申込サイト:https://oceandnatech2021.peatix.com/

私たちの研究室では、環境中での微生物動態を解析するために、従来より海水のフィルターサンプルから抽出したDNAの解析を行ってきました。こうしたアプローチは1990年代に登場し、分子生物学的手法によって微生物の生態を研究する学問として、Molecular Microbial Ecology(分子微生物生態学)と呼ばれてきました。2000年代後半に次世代シーケンサーが登場すると、微生物群集が持つ全DNA配列を対象に網羅的にシーケンスして解析するメタゲノミクスへと発展しています。

次世代シーケンサーによるDNA配列決定の劇的な低コスト化と効率化によって、微生物だけでなく、環境中でのあらゆる生物動態をモニタリングするツールとして環境サンプル由来のDNA配列情報が利用できるようになってきました。環境中に存在する生物由来の細胞(水中では主に表皮からの剥離と糞便に由来)および微生物細胞から抽出回収されるDNAは「環境DNA」と呼ばれ、回収したDNAを解析することによって、現場に生息する生物種の特定や存在割合、多様性の把握に利用することができます。環境DNAによるモニタリングは生物個体そのものを採集しないため、サンプリングが容易でかつ野生生物に負荷の少ない利点があります。

私たちの研究室では、海洋研究開発機構や千葉県立中央博物館などと協力して、海洋における各種生物群(バクテリア,プランクトン,魚など)の動態をモニタリングできる現場型環境DNA自動分析装置と,その周辺技術の開発を行ってきました。これらの技術は、環境保全、環境影響評価、水産資源評価、下水における病原体検出、工場排水や大規模プラントの処理曹における有害微生物検出といった多様な応用展開が想定され、従来の環境調査や資源調査の枠組みを大きく変革すると共に、海洋生物モニタリングへの市民参加を可能とする技術としても注目されます。私たちが目指す社会実装のためには,当技術ニーズの掘り起こしや正確な把握,多様なステークホルダーとの協働体制を整備する必要があり、そのための活動の一環として今回のイベントを企画しました。

多くの方に参加いただけることを期待しています。

ATGC12の開発

文科省プロジェクトで開発中の12連装自動採水装置Autonomous Gene Collector 12ATGC12)のテストのため、開発者であるJAMSTECの福場博士と一緒に岩手県大槌町にある国際沿岸海洋研究センターに1週間ほど行ってきました。センターの係船場に設置して24時間の動作テストです。詳しくは、これからの分析結果待ちですが、装置の動作は問題なさそうなので、順調に次のステップに行けそうです。今回はグランメーユを出してもらって、大槌湾内での採水も行いました。戻ってからの微生物相解析は特任研究員の後藤さんが担当します。想定したデータが得られるかどうか期待です。