修士の学生2名、晴れて卒業の日を迎えることができました。社会人として活躍を期待しています。山口さん、李さんおめでとう!
波の花@能登半島曽々木海岸
昨年末に「波の花」のサンプリングに行ってきました。
冬の日本海沿岸部では、風の強い日に、荒波で生じる泡がいつまでも消えずに残り、岩場などに大量に積み重なることがあります。これらの大量発生した泡は、「波の花」と呼ばれ、日本海の冬の風物詩として知られています。海水中に生じる泡は、海面まで上昇すると通常はすぐに弾けてしまいますが、水中に界面活性を増加させるような物質が溶けていると泡が消えずに残りやすくなります。また、水温が低下すると水の粘性が増加するためやはり泡が消えにくくなります。「波の花」は、冬の風物詩として良く知られている割には、その発生メカニズムについての科学的な説明は見当たりません。界面活性作用をもたらす有機物は何なのか?その由来はどこなのか?発生の気象条件は?マイクロレイヤーとの共通性は?などなど、色々疑問が湧いてきます。広島大学の岩本先生の研究によると、「波の花は海水と比べ少なくとも 100 倍から 300 倍の濃度の有機炭素を含み、それらは脂質や糖類によって構成される」とのことです。
昨年と一昨年は11月に行きましたが、今回は12月下旬から能登半島にある金沢大学環日本海域環境研究センターの臨海実験施設に1週間ほど滞在して、サンプリングをしてきました。最初の2日間は、幸か不幸か12月下旬とは思えない暖かい晴天となり「波の花」は皆無でしたが、3日目に待望?の荒天となり無事に「波の花」に遭遇することができました。これらの試料を使って、有機物の再分析を行うと同時に、rRNA遺伝子のアンプリコン解析により、有機物の由来になっている生物を特定する予定です。

波の花の顕微鏡写真(x400)
白鳳丸インド洋航海ーマイクロレイヤー
本航海では、北緯5度と南緯5度の2つの観測点でマイクロレイヤー観測を行いました。海表面マイクロレイヤー観測には、波のないフラットな状態の海面、「スリック」と呼ばれる状態が必要です。無風状態がベストですが、経験的に風速6mを下回るコンディションになるとこうした状態が見られるとされています。風が弱い時期とはいえ、なかなかマイクロレイヤー向きのコンディションになることは少なく、何度か観測をスキップしてようやく2回の観測ができました。専用のサンプラーで極表面の海水を集めるため、船からZodiacと呼ばれるボートを降ろしてのサンプリングです。大海の真ん中で波に揺られながらの数時間です。マイクロレイヤーの微生物叢を調べるほか、採取した水をバブリングして、人工的に海泡エアロゾルを生成させる実験も行いました。海水、マイクロレイヤー、海泡エアロゾル、大気、それぞれの微生物叢を比較することにより、海洋微生物がダイナミックに海洋ー大気間を移動する様子が見えるのではと期待しています。

白鳳丸インド洋航海ー大気サンプルが……
本航海では昨年の太平洋航海に引き続いて、海水に加えてマイクロレイヤーと大気観測が大きな目的でした。広島大学の岩本洋子先生(大気化学)との共同研究です。大気観測では、アッパーデッキに大気のサンプラーを設置して、フィルターを毎日交換しながら微生物分析用の試料を集めたのですが、フィルター試料があまりに黒いのにびっくり!昨年の太平洋亜熱帯航海では、フィルターはほぼ真っ白だったのに、あまりの違いに唖然…..。同時に測定していたオゾン濃度(大気汚染の指標)も東京都心部並みの値とのこと。観測時の気塊がどこから来ていたのかをモデル計算する後方流跡線解析によると、北からの風に乗って陸地からのエアロゾルが大量に運ばれてきていたようです。土壌細菌とか、カビとか、花粉とか、陸由来のものが大量に検出されるに違いない。海風になる夏場は大丈夫なのかもしれないが、しかしインド洋の大気って……… ちなみに風向が変わる南半球に入ったらフィルターは白くなりました。大気微生物叢の方もかなりドラスティックな変動が見られそうです。


白鳳丸インド洋航海ーベンガル湾
白鳳丸でインド洋に行ってきました!
11/6にプーケットを出港して、インド洋ベンガル湾の中央部から、東経88度線に沿って南下し南緯20度までおよそ5度毎に観測して、12/3にジャカルタに入港しました。航海中にブログ更新したかったのですが、結局帰ってからに。
私にとっては初めてのインド洋でしたが、太平洋とは全然違うなあというのが多くの乗船研究者と共に抱いた感想でした。11月は、ちょうど夏から冬へのモンスーンの変り目に当たる時期で、風も比較的弱い日が多く、快適な航海でした。おかげで、予定した点を全て観測することができました。観測を開始したベンガル湾の中央部では表層に低塩分水が広がっており、巨大河川(ガンジスーブラマプトラーメグナ水系)の影響を強く受けていることが伺われました。表層のクロロフィル濃度はそれほど高くないにも関わらず、中層には強い貧酸素水塊が見られたことから、河川からかなりの有機物が供給されているのではないかと思います。こうした表層の低塩分水や中層の貧酸素水塊は、赤道付近までに見られなくなり、赤道を超えて南半球に入ると、いわゆる熱帯・亜熱帯の外洋域らしい様相となっていました。ということで、今回の南北トランセクトの微生物多様性や群集構造パターンは、かなりドラスティックかつわかりやすい変化が見えるのではないかと期待しています。太平洋との比較解析が楽しみです。また、アラビア海の貧酸素水塊は良く研究されていますが、ベンガル湾の方は報告が少ないので、こちらもどんな微生物叢が見られるのか楽しみです。





海表面マイクロ層に生息するアンモニア酸化古細菌の初報告
特任研究員のWong さんが主著の論文“Ammonia oxidizers in the sea-surface microlayer of a coastal marine inlet”がPLoS Oneでオンライン出版されました。
神奈川県三浦半島にある臨海実験施設で行った海表面マイクロレイヤー(SML: sea surface microlayer)研究の成果です。アンモニア酸化反応は、海洋における栄養塩再生に欠かせない重要な反応で、海洋ではThaumarchaeota門の古細菌がその役割の大部分を担っています。海水中ではその分布が良く調べられていますが、SMLにおける分布は不明でした。本研究ではアンモニア酸化遺伝子(amoA)を指標にして、SMLに分布するアンモニア酸化古細菌の数や種類を初めて明らかにしています。直下の海水に比べて、数は少ないものの海水中とは明らかに異なる群集組成となっており、アンモニア酸化古細菌にとってもSMLが特異な生息環境であることが伺われます。
コルシカ島 SOLAS Summer School
Shu-Kuan Wong was selected to join the 7th SOLAS Summer School at Corsica, France from 23rd July- 4th August 2018. This year’s summer school brought together 65 aspiring young scientists and early career researchers from 23 countries. The aim of the summer school is introduce the participants to skills and knowledge needed to study the air-sea interactions. Participants are exposed to lectures as well as workshops and laboratory experiments including sampling onboard the French research vessel, Tethys II, off the coast of Ajaccio. Participants also share their work through poster and oral presentations. She also presented her current work on microorganisms in the Sea Surface Microlayer and Sea Spray Aerosol during the school. The interactions with lecturers and other participants have provided her with a lot of new perspectives in the field of air-sea exchange.
Outdoor poster presentation session
French research vessel, Tethys II
Lab work on phytoplankton and zooplankton identification
View of the Mediterranean from the institute
Gordon Research Conference 2
前回Gordon Research Conferenceについて書きましたが、今回はその続きです。7月1日、日曜日の午後に現地に着いてホテルにチェックインすると、まずは夕食を食べながら参加者同士の顔合わせです。それからオープニングレクチャーに続く初日の講演が始まり夜の9時過ぎに終わりました。時差ボケで、半分寝てましたが….。翌日の月曜日から木曜日までの4日間は、午前中に招待講演とディスカッション、午後は自由時間、夕方4時すぎからポスターセッション、再び招待講演とディスカッション、夜8時から夕食といったハードなスケジュール。自由時間には、ホテルのプールやジムで勝手に過ごしてもいいし、毎日用意されているソーシャルアクティビティに参加することもできました。私は、せっかくの機会なので、近くにあるLuccaという中世の城郭都市へのツアーやワイナリーツアーに参加しました。さらに、これまでにも何度か開催されてきMarine MicrobiologyのGRCでは、水曜日の自由時間にはサッカーをするのが恒例になっているということで、もちろん参加して来ました。160人程度の参加者なので、大した人数は集まらないのではと思いきや、グランドに行ってみたら40人以上集まっていてビックリ。しかも、女性も10人近くいたのには文化の違いを感じました。昼間の炎天下でヘロヘロになりましたが、各国、老若男女入り混じってかなり楽しかったです。イギリス人の女の子がとても上手だったので、「いつもやってるの?」と聞いたら「このくらい普通でしょ」との返事が。




Gordon Research Conference
7月の第一週、Gordon Research Conferenceに初めて参加してきました。良い会議だと話は聞いていたのですが、これまでなかなか参加する機会がありませんでした。実際に参加してみると噂に違わない素晴らしい内容で、充実した楽しい一週間でした。
GRCは、アメリカの非営利団体、あるいはその団体が開催を支援する科学会議の名称で、自然科学の様々な分野についての年間300件以上のGRCが開催されています。今回私が参加したのは”Marine Microbiology“のGRCで、イタリアのピサ市からさらに車で1時間ほどのところにある山間のリゾートホテルで開催されました。通常の国際会議やシンポジウムと違うのは、特定のテーマについての一線級の研究者を招待し、若手、中堅研究者と一緒に、現在進行中の研究や未だ論文になっていない最新の研究結果について議論がなされる点で、米国や欧州の研究動向や今後のトレンドが見えてきます。若手研究者にとっては、関連分野の中心的な研究者と親しくなれる絶好の機会でもあります。このような会議を実現するため、GRCでは、非公開、比較的少人数(100-200人)、合宿形式、要旨集を作成しない、参加選考をする、参加者全員に発表させるといったユニークな会議ポリシーで運営されています。もちろん会議の内容をSNSに投稿することも禁止です。
私自身は、シニアな研究者の中に2−3人の知り合いがいるだけで、ほとんどは初対面の研究者ばかりでした。朝昼晩と三食をホテルで一緒に食事するので、ほぼ毎回名乗って握手してから食事開始といった感じで、最初はストレスですが、慣れると結構楽しくなります。ランチ後から夕方4時までは自由時間で、その間プールで泳いだり、サッカーしたり、観光したりといった感じで5日間を過ごすので、参加者同士でかなり親しくなることができます。ちょうどW杯の決勝トーナメント期間中でしたので、サッカー話も結構盛り上がりました。日本代表も決勝トーナメントに進んでベルギーと素晴らしい試合をしてくれましたので、日本代表に感謝です!惜敗した翌日はかなり慰められました。研究の世界でも人的なネットワークは何よりの財産です。例えば、論文掲載の可否は、同じ分野の研究者による相互査読によってが決まりますが、微妙な判断となった時に、著者が「知らない東洋人」か「GRCで一緒にサッカーした日本人」かで採否に影響することも十分にあり得ます。ただ、こうした実利を抜きにしても、様々な国とバックグランドを持つ同好の研究者と1週間を共に過ごす経験は、とてもエキサイティングで冒険心や探究心を大いに満たしてくれるものですので、自分の周辺の特に若手研究者には参加を強く勧めたいと思いました。次は2年後にイタリアかスイスでの開催となりそうです。
窒素固定研究プレスリリース
7月9日(月)一昨年までJSPSの特別研究員として微生物分野で一緒に研究していた塩崎拓平さん(JAMSTEC研究員)の亜熱帯海域の窒素固定に関する論文”Linkage between dinitrogen fixation and primary production in the oligotrophic South Pacific Ocean”がGlobal Biogeochemical Cycles誌に受理されました。大気海洋研究所と関係機関からプレスリリースしました。
海の窒素固定者として良く知られているのは、トリコデスミウムという藍藻類の一種ですが、近年になってそれ以外にも多様な窒素固定生物が少なからず存在していることが明らかになってきました。この研究では、南太平洋の亜熱帯海域でトリコデスミウムが主要な窒素固定者となっている海域と、UCYN-Aと呼ばれる微細藻類に細胞内共生する藍藻が主要な海域を比較して、窒素固定生物の違いが海洋の窒素循環や基礎生産の変動を左右する要因となりうることを示しています。亜熱帯海洋生態系は、「窒素固定=光合成生産の増加」といった単純なものではなく、もう少し複雑な仕組みで動いているようです。