白鳳丸世界一周航海 〜ハワイ沖で藍藻ブルームに遭遇

1026日ハワイ入港当日、オアフ島に近づいてホノルル入港まで2-3時間といったあたりで、甲板に出てふっと海面を見ると、何やら茶色い木屑のような固まりが漂っています。ん!!急いで舷側に寄って覗きこむと、前進する船の前方から後方に向かってかなり広範囲に流れていきます。どうやら、窒素固定性藍藻類トリコデスミウムのブルームのようです。トリコデスミウムは亜熱帯の貧栄養海域、特に島の近くで大増殖してブルームを形成することが知られており、綺麗な青い海に茶色い縞模様を作っている写真が教科書にも良く載っています。多くの植物プランクトンは、窒素源として硝酸塩やアンモニウム塩を増殖に必要としますが、亜熱帯外洋域の表層にはこれらの栄養塩がほとんどありません。トリコデスミウムは、空気中にたくさん存在する窒素ガスを直接利用できる窒素固定酵素を持つため、普通の植物プランクトンが増殖できない亜熱帯外洋域でも増殖することができます。2年前の白鳳丸航海でもハワイ沖のゾディアック観測時にトリコデスミウムのブルームにあたり、ちょうど同じような感じでしたので、まず間違いないのではないかと思います。

ハワイ沖で遭遇した(おそらく)藍藻ブルーム

白鳳丸世界一周航海 〜30年ぶり2度目

1016日、白鳳丸の世界一周航海が始まりました。少し変則的ですが、1989年以来30年ぶり2度目の世界一周航海となります。

横須賀港を出航して、まずは10日間ほどで太平洋を横断してハワイのホノルル港を目指します。さらに、10日間ほど東へ向かいチリ沖の西経90度ラインを観測して11月中旬にバルパライソ港に入港します。バルパライソから再び西経90度ラインを南下して、12月中旬にチリ南端のプンタアレナス港に入港します。生物化学系の研究チームはここで下船して、地質系の研究チームに交代します。彼らを乗せた船は、お正月を洋上で過ごしつつ南極海の大西洋セクターで観測し、1月中旬に南アフリカのケープタウンに入港します。次は物理系の研究チームが乗船して、南極海のインド洋セクターの観測です。2月の中旬にオーストラリア西岸のフリーマントルに到着し、ここで研究者は全員下船します。船はそのまま東周りで東京まで航走して35日に帰港する予定です。ちなみに、前回は太平洋、大西洋、地中海を横断し、パナマ運河、スエズ運河を通過するという、文字通りの世界一周航海でした。私は大学院入学前年で、惜しくもこの航海に参加することができませんでしたので、今回こそはと思っていたのですが

タイミングが悪く、ハワイまでのわずか10日間だけの乗船となりました。返す返すも残念です。

 JAMSTEC岸壁の見送り

 横須賀港出航

 ホノルル港出航

海外インターンシップ

8月最後の週は、海外でのインターンシッププログラムの視察のため、ベルギーの首都ブリュッセルに行ってきました。このプログラムは、東京大学とダイキン工業の産学協創協定による活動の一環として今年から始まったものです。50名の学生がいくつかのチームに分かれて、北米、欧州、中国、ベトナムなど世界各地にあるダイキン社で2~3週間の調査活動を行うというものです。大学としても初めて実施するプログラムということで、その成否を見極めるため、社会連携担当の総長補佐として視察に行ってきました。私は欧州滞在型と世界一周型のチームが、ダイキン欧州本社に滞在しているタイミングで3日間ほど、彼らの活動を見てきました。欧州では夏の気温が上昇傾向にあり、これまで冷房文化のなかったた北部地域でのエアコンの普及が進んでいることや、EUの環境政策とビジネスの関係など、専門の研究分野とは全く違うところでとても面白い見聞ができました。学生の方は、多くの希望者から選ばれただけあって、いずれも個性的かつアグレッシブなキャラクターばかりで、結構タイトなスケジュールやハードル高めの課題設定に苦労しつつも楽しそうでした。来年以降、人気のプログラムになりそうです。いつもとは違う緊張感もありつつ、見聞きするものが新鮮で楽しい視察でした。二泊四日の強行軍でしたが、色々と考えさせられることも多く得難い出張となりました。

ダイキン欧州本社

  ブリュッセル市街

ブリュッセル中央駅

久しぶりの豊潮丸航海

広島大学の練習船「豊潮丸」の研究航海(7/8-12)に乗船してきました。かつて広島大学に勤務していた時には、瀬戸内海を中心として毎年のように調査や実習航海でお世話になっていましたが、東大に異動してからは長らく乗船していませんでした。現在の船は、私が異動した直後に新造された4代目「豊潮丸」で、3代目と比べて格段に良くなったとの噂で、予てから乗船してみたかったのですが、ようやく実現しました。小さいながらも充実した装備で噂に違わず良い船でした。

今回は、エアロゾル関連で共同研究している岩本先生からのお誘いで乗船し、ポスドクの菅井さん、学生の野村さんと一緒にゾディアックでの海表面マイクロ層のサンプリングを実施してきました。菅井さんと野村さんには、10月からの白鳳丸航海でゾディアックサンプリングのミッションがありますので、そのための良い予行演習にもなりました。今回はわずか1日の乗船でしたので、次回はもっとゆっくり乗船したいと思ってます。

 4代目「豊潮丸」

 ゾディアックでのサンプリング

集合写真

 

外洋域の微生物に備わるヒ素耐性

太平洋亜熱帯海域におけるリン、ヒ素の分布と微生物動態に関する論文”Arsenate and microbial dynamics in different phosphorus regimes of the subtropical Pacific Ocean.” がProgress in Oceanography誌にてオンラインリリースされました。東京海洋大学の橋濱先生の研究グループとの共同研究です。

北太平洋亜熱帯海域の西部では活発な窒素固定により、表層海水中のリン酸塩が消費され枯渇状態にあります。そうした海域の微生物にはヒ素耐性に関わる遺伝子がより多く備わっていることがわかりました。ヒ素取込みの影響を回避するための適応の結果と考えられます。ダストによる鉄供給が左右する窒素固定活性が、海域間での化学成分の違いにつながり、さらに微生物機能の違いにまで影響しているようです。地球環境と海洋の生物活動が密接にリンクしていることを示唆する好例だと思います。

日本地球惑星科学連合2019大会 & “GEOFUT 19”

今週は、幕張メッセで日曜日から木曜日まで開催れていた日本地球惑星科学連合(JpGU)の大会に参加してきました。JpGUは地球惑星科学関係の国内学会が集まって組織された連合組織です。自ら公益団体として春の大会運営やニュースレター、科学雑誌の発行を行っており、学問の細分化で多くの学会組織が乱立する状況でこれらを統合する組織として設立、運営され、大きな成功を収めている例だと思います。

私が所属している日本海洋学会も、2年ほど前から春と秋の2回の年次大会のうち春の大会はJpGUに合流する形で実施しています。私としては、生物系の発表が減ったのは残念なのですが、一方で大気化学やエアロゾルに関するセッションにも参加できるので非常にメリットを感じます。また、大会規模が大きいため、ポスターフロアーで展開されている企業展示やアウトリーチがとても充実しており、お祭り気分で楽しくうろうろできるのも魅力です。

水曜日の夜は、ポスドクの菅井くんと一緒に大会参加者向けのフットサルイベントGEOFUT 19に参加してきました。チームでも個人でも参加できるのですが、昨年と同じく海洋学会チーム「Oceanographers」でエントリーしました。女子とおじさんは得点すると2点なので、張り切って参加しましたが、残念ながらおじさんは得点できませんでした。それでも、女子が得点も含めた大活躍で、最終的には1勝2敗2分で終了しました。終了時間が遅かったので、みんなと一緒に飲みに行けなかったのが残念ですが、楽しいイベントでした。秋は、富山での大会なので、しっかり準備して(もちろん発表の)、サッカー好きメンバーとの再会を期したいと思います。

アンモニア酸化古細菌Shallow Marine Cladeの意外な分布

駿河湾におけるアンモニア酸化古細菌(AOA)の鉛直分布を調べた論文が公開されました。主著者は元特任研究員の伊知地稔博士です。アンモニア酸化に関わるamoA遺伝子をマーカーにして、qPCR法で計数したDeep Marine clade(DMC)とShallow Marine clade(SMC)の2つのエコタイプの特徴的な分布を報告しています。

アンモニア酸化古細菌は、海洋における硝化過程を担う鍵生物群ですが、日本周辺海域でその分布をきちんと調べた例はほとんどありません。そうした意味で貴重なデータですが、加えてフィルターによるサイズ分画によってAOAの多くは粒子付着性ではなく自由生活性であることを明らかにしています。また、一般にSMCとDMCは、そのネーミングの通りそれぞれ表層と中深層ではっきりとした住み分けが見られ、この論文でも自由生活性群集でその傾向が綺麗に見えています。面白いのは、粒子付着性群集のパターンです。SMCの割合が中深層でもそれほど低下せずDMCと同程度の割合を保っています。これは、粒子に付着したまま表層から運ばれている、あるいは中深層でも粒子中はアンモニア濃度が高いなどの理由でSMCが生残できるニッチとなっているといった理由が考えられます。粒子付着性AOAは数的にはマイナーですが、もっと詳しく調べると、これまで知られているAOAとは違った特徴が見えるかもしれません。次の研究の種が示されています。

Minoru Ijichi, Hajime Itoh and Koji Hamasaki (2019) “Vertical distribution of particle‑associated and free‑living  ammonia‑oxidizing archaea in Suruga Bay, a deep coastal embayment of Japan” Archives of Microbiology (https://doi.org/10.1007/s00203-019-01680-6)

論文へのリンクはこちら

本論文の観測に利用した淡青丸
淡青丸船内の研究室

11th ASME in 台中

超大型GW明けの週末5/11-13に、台湾の台中市で開催された第11回アジア微生物生態シンポジウム(11th Asian Symposium on Microbial Ecology)に参加してきました。このシンポジウムは、日本微生物生態学会、台湾微生物生態学会、韓国微生物学会が中心となり、それぞれの学会員間の交流を促進するために毎年開催されています。木暮先生が日本微生物生態学会会長を務められ、私たちの研究室で事務局を担当していた10年前に日韓でスタートし、その後台湾を加えて、それぞれの年会開催に合わせて順番に開催してきました。今回は、マレーシア、ベトナム、香港、シンガポールなどからも参加者があり、次回はさらに多くのアジアの国々から参加者が集まることを期待しています。

微生物生態学は、環境と微生物の関わりを探求する学問ですが、アジアにはたくさんの固有の環境や文化があり、そこに新しい発見が生まれる素地があるはずです。新しい技術を求めて欧米の国際学会に参加するだけでなく、ユニークな環境や文化を求めてアジアの国際学会に参加することによって、研究の新たな方向性や予期せぬ展開が生まれるチャンスがあるのではないかと思います。今回の招待講演などでも、漢方薬と腸内細菌の関係、水田の窒素循環やメタン生成、台湾の石灰藻リーフ生態系、日韓の山岳地に生息する線虫多様性など、アジアの環境や文化を対象とした研究が多くありました。

会場となったのは台中市の東海大学です。ミッション系の私立大学で、附属の中学校や高校も併設されており、緑豊かな美しいキャンパスでした。キャンパスの中心部には、素敵な造形の教会があり、学会前の早朝にのぞいたらミサの準備が行われているところでした。また、宿泊したホテルの近くには、市庁舎や芸術劇場、大型百貨店などがあり、その周辺地区は再開発が進められいるようで、高層マンションが林立していて台中市の発展ぶりが伺われました。

Opening ceremony
東海大学キャンパス
東海大学キャンパス
東海大学のキャンパス内にある路思義教堂(The Luce Chapel)
第二市場の食堂
台湾のウユニ塩湖「高美湿地」
台湾高速鉄道(のぞみ台湾バージョン)

SOLAS Open Science Conference in Sapporo

北海道大学で開催された国際会議に参加してきました。SOLAS:The Surface Ocean–Lower Atmosphere Studyは、大気と海洋間の物理・化学・生物プロセスに関する研究を推進するための国際プログラムで、3年に1回くらいの頻度で国際会議が開催されています。今回は初めての日本開催として北大札幌キャンパスで開催されました。科研費プロジェクト「海表面マイクロ層とエアロゾルの微生物学」の成果がまとまってきましたので、その一部を発表してきました。

https://www.confmanager.com/main.cfm?cid=2778

ゼミ&お花見ランチ

毎週木曜日の午前中は研究室ゼミの時間ですが、新たなメンバーを加えて今年度最初のゼミをやりました。いつもは、ランチを食べながらミーティングですが、本日は敷物とお弁当を持って隣の公園にお花見に行ってきました。お天気も良くて最高のお花見日和でした。みんな考えることは同じらしく、他の研究室でもたくさんお花見に繰り出していました。