eLightningセッション

Ocean Science Meetingで面白かったのは、今回初の試みという「eLightningセッション」という発表形式です。ポスター会場の一角に設けられたスクリーンと客席を使って、10名ほどの登壇者が5分の持ち時間で順番に研究内容を発表し、最後に10分ほどの質問とディスカッションの時間があります。それが終わると、客席の後方のテーブルに並ぶ10台ほどのPCモニターを使って発表者と聴衆が個別にディスカッションを行うというものです。これまでも、小規模な学会ではポスター発表の内容を口頭で1分紹介するような形式はありましたが、eLightningはより口頭発表に近い印象でした。セッションの発表内容を短時間にレビューして、興味のある発表にはさらに質問できるので、口頭とポスターの良いとこどりしたシステムと言えそうです。

eLightningセッションの会場

発表後のモニターディスカッション

 

Ocean Science Meeting 2020

2/1621の日程でサンディエゴで開催されたOcean Science Meetingに参加してきました。この会議は、米国地球物理学連合(AGU)、陸水海洋科学協会(ASLO)、海洋学会(TOS)という3つの米国の学会団体が合同で、2年に一回開催するもので、海洋科学に関する学会大会としては最大級のものです。大会ツイッターの情報によると、参加者数は66カ国から6300名(うち学生が32%)、ポスター発表3244件、口頭発表1820件、コーヒー消費量は1530ガロン!

口頭発表は、並行して20近いセッションがあるので、プログラムをチェックするだけで一苦労ですが、そこは専用のアプリを使うとマイスケジュールを作成し、スマホ片手にスマートに移動できます。ポスター会場も巨大なので、これもスマホアプリでポスターの位置をピンポイントで特定しながら回ることになります。なんだか隔世の感がありますね。

微生物分野からは、ポスドクの菅井くんがマイクロレイヤーにおけるCOの生成と消費に関する研究について、大気ー海洋相互作用のセッションで口頭発表しました。私自身の発表はありませんでしたが、大気ー海洋相互作用のセッションのほか、微生物動態のセッションや物質循環のセッションなどに参加しました。質量分析計やNMRの高性能化による化学物質の同定、特に有機物の化学種の同定技術が急速に進んでおり、各種Omicsによる生物側の機能解析との融合がますます進みそうです。これからの研究展開の鍵になってくるでしょう。今回は、久しぶりの参加でしたが、この学会は微生物も含めて生物、化学系の発表が非常に多く、この研究分野の裾野の広さを改めて実感しつつ、研究のモチベーションを高めて帰ってきました。

口頭発表セッションの会場

ポスター会場の入り口

アートとサイエンス

会場のコンベンションセンター周辺のお店には歓迎の張り紙が

サンディエゴには60以上のマイクロブルーワリーがあるらしい

金曜日の夜

東京大学の統合報告書IRxIR2019が面白い!

少し前になりますが、東京大学の統合報告書2019年版が公表されました。「報告書」と聞くと何やら堅苦しい感じがして、しかも「統合」が付くと、はなから聞き流してしまいそうですが……

さにあらず。読みものとしてかなり面白いです。東京大学がいったいどんな大学で、何を目指しているのか、情報量を極力抑えつつ要所が上手にまとめられていて、研究、教育だけでなく経営や財務情報も含めて大学全体の活動を俯瞰することができます。私がこの夏に視察に行った「グローバルインターンシップ」も紹介されています。実際に大学で行われている多様な教育研究活動について、これだけで網羅できるはずもありませんが、それでも誰かに「東京大学ってどんな大学」と聞かれたら、私はまずはこの報告書を渡します。受験生や在校生にもぜひ読んで欲しいと思います。「東大に入ろう、ここでもっと研究しよう」というモチベーションが上がるのではないかと思います。

招聘教授が来日

12/7から3ヶ月の予定で韓国の浦項にある韓東大学教授の都先生が滞在されています。都教授は、海洋微生物の分類、生態、生理活性物質生産に関する専門家で、特に海洋細菌の分離培養に関する豊富な知識と経験のある先生です。1989 ~ 1995年に大学院生として、旧海洋研究所でフグ毒産生細菌に関する学位研究をされました。その後も中野本所や大槌の国際沿岸海洋研究センターに客員教員として 滞在されています。今回の招聘では、フグ毒産生細菌に関する研究の未解明課題について議論しています。1/23には、大学院生などに向けて特別セミナー「フグ毒研究の流れと今後の展開に向けて」を行いました。

研究室新年会2020

1/17(金)に所内で新年会をやりました。都先生からの差し入れのキムチ鍋にチャンジャと韓国焼酎、ごちそうさまでした。

波の花サンプリング in 能登

今シーズンも波の花サンプリングに行って来ました。

今回は12月20日から24日まで、いつもの金沢大学能登臨海実験施設に滞在して、曽々木海岸でのサンプリングでした。20日の金曜日の午前中に到着すると、「今日は風向きもいいし出てるんじゃない」ということで、早速午後から出かけました。行ってみると、すでに時化が収まりつつあったようで、いわゆる「波の花」状態はありませんでしたが、岩場にわずかに溜まった泡をかろうじてとることができました。翌日からは穏やかな天気で「波の花」は全く出ず……最終日にようやく少し風が吹きそうな予報でしたので、夜明けと共に出かけて行き、少しだけ取ることができました。午後のフライトに間に合うようにと、最後はバタバタでした。

岩場に少しだけ発生

とれたて波の花

泡がなくなると泥水状態に

TEP測定用に染色

 細菌の分離作業

1週間後くらいからコロニーが出現

面白そうな菌をピックアップ

研究室忘年会2019

都先生の歓迎会も兼ねてちょっと早めの忘年会を所内セミナー室でやりました。令和最初の年もあっという間に師走。白鳳丸組の菅井さん、野村さんはまだ帰ってませんが、代わりにOB, OGが参加してくれました。

県立柏高校で出前講義

1127日と29日の2日間、近くの高校で出前講義をしてきました。午前中に2クラスずつ、合計4クラスの1年生の生徒さんたちに、研究室で分離した新種Amylibacter kogureiや珍種Cellulophaga geojensisを見せながら海の微生物の話をしてきました。2016年から毎年秋にやっていますが、今年で4年目になります。授業時間は50分ですが、高校生相手に適当な早さで進めるのがなかなか難しく、用意した内容の2/3程度しか話せなかったのが反省点です。毎年生徒さんは違うので、同じ内容でもいいのですが、それだと面白くないので、少しずつ内容を変えています。最初の年は、亜熱帯と亜寒帯の生態系の違い、2年目は大気と海洋生態系の関係、3年目は生物ポンプ、今年は生態と適応戦略をテーマにしました。千葉県立柏高校は、10年以上前からスーパーサイエンスハイスクールの指定を受けて理数教育に力を入れているということで、この出前講義もその活動の一環と伺っています。高校生のうちは、大学や大学院がどんなところか、なかなかイメージを持ちにくい中で、大学での研究の様子やこれまで聞いたことのない学問分野の面白さが少しでも垣間見えるといいのですが。今後もこのような機会を捉えて、海洋研究の醍醐味でもある大型研究船を使った調査や研究の魅力について、積極的に伝えていきたいと考えています。

海表面マイクロ層から分離した新種Amylibacter kogurei

「波の花」から分離した珍種「キラキラ菌」Cellolophaga geojensis 

国際水圏メタゲノムシンポジウム

1123日と24日の2日間、北里大学で開催された国際水圏メタゲノムシンポジウムで講演してきました。私の発表は、先日出版されたMarine Metagenomicsに掲載したHiCEP法による微生物群集トランスクリプトーム解析(Fujimura et al. 2019)に関する内容です。私は初日の午前中早々の登壇でしたので、緊張の時間はすぐに終わって、あとはゆっくりとシンポジウムを楽しむことができました。シーケンスのスループット上昇は止まるところを知らず、どこまでも「安く、早く」なる一方ですが、結局のところ研究の良し悪しを決めるのは、アイデアとデザインだということを改めて認識しました。2日目の午後には、真核生物のイントロンと遺伝子組み換え技術の発見で1993年にノーベル医学・生理学賞を受賞されたリチャード・ロバーツ博士によるBacterial Methylomes と題する講演があり、「バクテリアの生命システムを完全に解明したい」と今だに好奇心旺盛に現役で研究されていることにとても刺激を受けました。講演後のパネルディスカッションで、ロバーツ博士が、遺伝子組換え技術に対する必要以上の危険性を煽るような行き過ぎた反対キャンペーンが、世界的な食料や健康問題解決のための技術的可能性を奪っていることに対する深い懸念を示されていたのが印象的でした。(あとで調べたら、「GMO(遺伝子組換え生物)を支持するノーベル賞受賞者からの書簡」「グリーンピース、国連、そして各国政府指導者へ」という声明が2016629日に出されており、これを主導したのがロバーツ博士のようです。)2日間を通じて、メタゲノム解析が微生物動態解析の強力なツールとなっていることを実感したシンポジウムでしたが、同時にメタゲノムデータをどう使って、どう料理するのか、解析のセンスと腕がより問われるようにもなっています。美味しくなるか、不味くなるかは、素材だけでなくて料理の腕も大事ということでしょうか。

北里研究所@白金

日本の細菌学の父 北里柴三郎博士の胸像

 

京都大学で集中講義

1114日と15日の2日間、京都大学農学部の吉田天士教授のお招きで、応用生物科学専攻の大学院生の皆さんに集中講義をしてきました。これまでも単発での出張講義はありましたが、今回のように集中講義形式でやったのは初めての経験でした。内容は、微生物海洋学概論ということで、食物連鎖、物質循環、大気ー海洋相互作用、多様性、方法論などについてお話ししましたが、時間配分が悪く準備した内容を全部は話せなかったのが反省点です。また、改めて海洋学と微生物学を統合的かつ俯瞰的に眺めることができるような教科書があるといいなぁと感じました。30名ほどの出席者でしたが、思った以上にしっかり聞いてもらえたように感じ、充実した2日間でした。初日の夕方は吉田研究室のみなさんが歓迎の宴を開いてくれましたが、その会場がとても素敵な建物でした。昭和6年に建築された旧演習林事務室で文化財指定されているとのこと。

京都大学吉田キャンパス