大学院生による研究ショーケース&ライブトークイベント

大気海洋研究所では、9月27日(日)に大学院進学希望者向けのイベントを開催します。例年であれば、9月にはサマーインターンシップという企画で、大学院進学希望者向けに研究室での研究活動を実際に体験してもらう機会を提供しています。しかし、この状況ではなかなか実施が難しいということで、代わりにオンラインで研究所での研究活動を紹介するイベントの開催となりました。

イベントでは、現在所属する大学院生による研究紹介やライブトークを通じて、未来の自分を想像してもらえればと思います。また、希望する学生には研究室や先生とのマッチングをサポートします。

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磯の香りと微生物 〜三陸沖で硫化ジメチルを生成する細菌の動態を解明

今週月曜日(7月13日)、元特任研究員の崔英順博士による硫化ジメチル(DMS)生成細菌に関する論文がFrontiers in Microbiology誌でオンラインリリースされました。太平洋外洋域での研究(Cui et al. 2015)三陸沖での研究(Nagao et al. 2018)に続く、DMS関連研究の第三弾です(三陸沖での研究については、以前のブログもどうぞ)。メソコズム実験とフィールド調査を合わせた共著者16名による大作で、最後はネットワーク解析まで駆使してまとめた苦心の作です。メソコズム実験が2010年、フィールド調査が2013-14年ですから、ようやく形にできてとても嬉しいですし、面白い論文になりました。メソコズム実験では、先日相模湾で25年ぶりに見られた円石藻のブルームを人為的に発生させて、珪藻ブルームと比較するという面白い実験をやっていますし、フィールド調査では親潮系水と津軽暖流系水の違いがDMS生成細菌の動態に綺麗にリンクしているデータが示されています。より詳しい研究の内容については、研究所の研究トピックで紹介しています。

Cui, Y., Wong, S. K., Kaneko, R., Mouri, A., Tada, Y., Nagao, I., … & Hamasaki, K. (2020). Distribution of dimethylsulfoniopropionate degradation genes reflects strong water current dependencies in the Sanriku coastal region in Japan: from mesocosm to field study. Frontiers in Microbiology11, 1372.

        バクテリアによるDMSP代謝経路と雲生成への影響

メソコズム実験:200Lタンク4基を屋外水槽に入れて温度を一定に保つ(右)数日後に植物プランクトンが大増殖し緑色に変化したタンク内の海水(左)

DMSP代謝関連遺伝子と環境要因の相関ネットワーク図:機能遺伝子単位でのまとまりが見られる。実線は正相関、破線は負相関を示す。水温と正相関を示すdmdA遺伝子群は津軽暖流の影響を強く受けており、水温や塩分と負相関でクロロフィル濃度と正相関を示すdddDとdddP遺伝子は親潮の影響を受けていると考えられる

 

相模湾で25年ぶりの白潮現象

5月初旬から相模湾で円石藻のブルーム(大増殖)が発生しています。葉山や江ノ島の海がエメラルドグリーンになっているということで、みんな不思議に思っていたようです。横浜国立大学臨海環境センターの下出先生のグループが調査をされて、Gephyrocapsa oceanicaという種類の円石藻ブルームで間違いなさそうとのことです。日本周辺海域のプランクトンブルームとしてはとても珍しい現象なのですが、本格調査ができないのが非常に残念です。

円石藻はその名前の通り、細胞の周りに円盤状の殻を持っている植物プランクトンです。この円盤が貝殻と同じ炭酸カルシウムでできているので、大量に増えると海に白いチョークを流したような状態になります。ちょうど白砂のビーチと同じような反射具合となって、海全体が少し濁った青緑色になります。大規模なブルームになると、宇宙からも海の色が変わっているのが見えます。殻の重みで深層に沈降しやすいことから、海の二酸化炭素吸収に重要なプランクトンとされており、硫化ジメチルという有機硫黄ガスの発生源になることで大気プロセスにも影響を及ぼすことが知られています。また、ドーバー海峡のWhite Cliffsは太古の昔に円石藻の殻が海に積もってできたものです。

教科書的な知識で、大西洋やベーリング海での大規模ブルームの発生は知っていましたが、日本沿岸域での発生は聞いたことがありませんでした。調べてみると、19955月に東京湾から相模湾にかけて大規模なブルームが発生したことが報告されていますし、2000年代には博多湾で繰り返し発生したと報告されています。横国の臨海環境センターでは、1995年から現在まで相模湾真鶴半島沖で月例の定点調査が行われていますが、今回のような円石藻ブルームが観測されたことはありませんので、実に25年ぶりの珍しい現象ということになります。

5月20日 国府津沖の海色変化

Japanese Marine Life – A Practical Training Guide in Marine Biology

先日、スプリンガー・ネイチャー社から表題の本が刊行されました。筑波大学下田臨海実験センターの稲葉先生らによる編集で、留学生向けの臨海実習の教科書として企画されたものです。本書の中のコラムの一つとして、Marine Microbesと題する小文を書かせていただきました。Overview, Roles in marine ecosystems, Diversity, Metagenomics, Microbiomeといったサブタイトルで、海洋微生物研究の現状を紹介しました。本書を利用する実習生が微生物に目を向けるきっかけになればいいなと思います。

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白鳳丸が世界一周航海から帰港

白鳳丸が5ヶ月ぶりに東京に帰ってきました。私たちの研究チームが採取した大量の微生物分析用のサンプルも戻ってきましたので、これから解析が始まります。4ヶ月を超える全レグ乗船の強者2名のおかげもあり、これまでほとんど調査例がない、南太平洋東部のサンプルに加えて、南大洋の大西洋セクターからインド洋セクターまで、今回のほぼ全航路に沿ったを海域を網羅する表層海水と大気サンプルからどんなデータが出てくるのか楽しみです。

退職のお祝い2 研究における先生の役割

現在は無くなってしまいましたが、当時は研究所の桟橋横の芝生広場に「スナックロポリス」というバーガー屋さんがあり、そこでランチを食べながら、あるいはコーヒーを飲みながらアザム先生とよく研究の話をしました。今やってる研究について、得られた結果の記述ではなく、ポイントを伝えることをいつも求められたのを今でも覚えています。研究をはじめて間もなく、最初に研究の話をしようとなった時に「どんな結果が出てる?」と聞かれ、「じゃあノート取ってきます」と答えたら、「ノートはいらないからポイントだけ言ってみて」みたいなことを言われ、虚を突かれた気持ちがしました。ノートが必要ということは、結果の意味について常に考えていないということなんだと気がつき、それ以降はいつも手ぶらで議論しました。

アザム先生からは、研究内容について次はこうすべきなどという話は一切ありません。結果の解釈、考え方、さらなる展開へのアイデアなど、思いつくままに1時間でも2時間でも議論します。しばしば発散気味になりますが、一方で新しいアイデアやモチベーションが湧いてきてかなり楽しい時間でした。「僕は、言いたいこと言って色々アイデアは示すけど、採用するかしないかは君次第だから」と言われたことを良く覚えています。今回の退職祝いのミーティングでは、いろんなOBからいろんな昔話が出てきましたが、アザム研究室あるいはアザム先生の特徴って何?みたいな話になった際には、みんなが同じようなことを言っていたのがとても印象的でした。

 

退職のお祝い1 研究留学はプライスレス

微生物ループの名付け親であるアザム先生が退職されると聞き、サンディエゴで開催されたOcean Science Meetingの後、スクリプス海洋研究所に行ってきました。今回の訪問の目的は、かつて研究留学でお世話になったアザム先生の退職を祝うミーティングに参加するためでした。

スクリプス海洋研究所は、サンディエゴのダウンタウンから海岸沿いに車で30分ほど行ったラホヤという街にあります。この街は古くからの別荘地で、太平洋に面した風光明媚な土地ですが、カリフォルニア大学サンディエゴ校を中心に、スクリプス研究所、ソーク研究所、バーナム研究所といった生物医学系の超一流の研究所や、米国大気海洋局の研究所、民間バイオテック企業などが集積する研究都市でもあります。

ミーティングは、大学院生時代にチミジン法を考案したフアマン博士の呼びかけで、各地からアザム研究室のOBが集まりました。朝から講堂に集合し、コーヒーとドーナツ片手に、シニア研究者から昔話とエピソード、そのあと研究所内のゲストハウスで地中海料理のランチビュッフェ、再び講堂に戻ってエピソードトークの続き。最後は再びゲストハウスで地ビールやワインを飲みながら昔話でワイワイ盛り上がりました。

私は2000年~2002年の2年間滞在して、BrdU法による海洋細菌の細胞レベルでの増殖測定の研究を行いました。アザム先生の知名度とオープンな人柄のせいもあり、当時の研究室にはすこぶる優秀な大学院生やポスドクに加えて、短期滞在などで国内外から様々な研究者が集まってきていました。当時のメンバーの多くは、今やそれぞれの研究グループを率いて活躍しています。こうした研究者との知己を得られたことが、アザム研究室に留学して得られたもっとも大きな財産です。彼らが面白い研究を発表しているのを見ると、こちらももっと面白い研究をしようという気持ちになります。

今回聞いたチミジン法に関するエピソードを一つ。1970年代後半、アザム先生と当時学生だったフアマン博士は、チミジン法による海水中の細菌群集の増殖速度測定を行い、その結果をある国際会議に持って行きました。同じ時期に、スウェーデンのハグストロム博士は、FDC法という顕微鏡下で分裂直後と思われる細胞を識別して、その出現頻度から全体の増殖速度を推定する方法を考案していました。アザム先生、フアマン博士、ハグストロム博士はお互いの結果が、同じような値であることを知り、自分の測定が間違っていないことを確信できたそうです。

朝から講堂に集合

同時代のラボ仲間によるエピソードトーク

研究所の桟橋「Scripps Pier」

 

 

eLightningセッション

Ocean Science Meetingで面白かったのは、今回初の試みという「eLightningセッション」という発表形式です。ポスター会場の一角に設けられたスクリーンと客席を使って、10名ほどの登壇者が5分の持ち時間で順番に研究内容を発表し、最後に10分ほどの質問とディスカッションの時間があります。それが終わると、客席の後方のテーブルに並ぶ10台ほどのPCモニターを使って発表者と聴衆が個別にディスカッションを行うというものです。これまでも、小規模な学会ではポスター発表の内容を口頭で1分紹介するような形式はありましたが、eLightningはより口頭発表に近い印象でした。セッションの発表内容を短時間にレビューして、興味のある発表にはさらに質問できるので、口頭とポスターの良いとこどりしたシステムと言えそうです。

eLightningセッションの会場

発表後のモニターディスカッション

 

Ocean Science Meeting 2020

2/1621の日程でサンディエゴで開催されたOcean Science Meetingに参加してきました。この会議は、米国地球物理学連合(AGU)、陸水海洋科学協会(ASLO)、海洋学会(TOS)という3つの米国の学会団体が合同で、2年に一回開催するもので、海洋科学に関する学会大会としては最大級のものです。大会ツイッターの情報によると、参加者数は66カ国から6300名(うち学生が32%)、ポスター発表3244件、口頭発表1820件、コーヒー消費量は1530ガロン!

口頭発表は、並行して20近いセッションがあるので、プログラムをチェックするだけで一苦労ですが、そこは専用のアプリを使うとマイスケジュールを作成し、スマホ片手にスマートに移動できます。ポスター会場も巨大なので、これもスマホアプリでポスターの位置をピンポイントで特定しながら回ることになります。なんだか隔世の感がありますね。

微生物分野からは、ポスドクの菅井くんがマイクロレイヤーにおけるCOの生成と消費に関する研究について、大気ー海洋相互作用のセッションで口頭発表しました。私自身の発表はありませんでしたが、大気ー海洋相互作用のセッションのほか、微生物動態のセッションや物質循環のセッションなどに参加しました。質量分析計やNMRの高性能化による化学物質の同定、特に有機物の化学種の同定技術が急速に進んでおり、各種Omicsによる生物側の機能解析との融合がますます進みそうです。これからの研究展開の鍵になってくるでしょう。今回は、久しぶりの参加でしたが、この学会は微生物も含めて生物、化学系の発表が非常に多く、この研究分野の裾野の広さを改めて実感しつつ、研究のモチベーションを高めて帰ってきました。

口頭発表セッションの会場

ポスター会場の入り口

アートとサイエンス

会場のコンベンションセンター周辺のお店には歓迎の張り紙が

サンディエゴには60以上のマイクロブルーワリーがあるらしい

金曜日の夜

東京大学の統合報告書IRxIR2019が面白い!

少し前になりますが、東京大学の統合報告書2019年版が公表されました。「報告書」と聞くと何やら堅苦しい感じがして、しかも「統合」が付くと、はなから聞き流してしまいそうですが……

さにあらず。読みものとしてかなり面白いです。東京大学がいったいどんな大学で、何を目指しているのか、情報量を極力抑えつつ要所が上手にまとめられていて、研究、教育だけでなく経営や財務情報も含めて大学全体の活動を俯瞰することができます。私がこの夏に視察に行った「グローバルインターンシップ」も紹介されています。実際に大学で行われている多様な教育研究活動について、これだけで網羅できるはずもありませんが、それでも誰かに「東京大学ってどんな大学」と聞かれたら、私はまずはこの報告書を渡します。受験生や在校生にもぜひ読んで欲しいと思います。「東大に入ろう、ここでもっと研究しよう」というモチベーションが上がるのではないかと思います。