寿命1万年の有機物の起源

後藤周史博士(特任研究員)の前所属での研究成果がFrontiers in Microbiology誌からリリースされました。

Goto, Shuji, et al. “Evaluation of the production of dissolved organic matter by three marine bacterial strains.” Frontiers in Microbiology 11 (2020): 2553.

海洋中には、大気中の二酸化炭素総量に匹敵する溶存有機物(DOM)が溶け込んでおり、地球規模の炭素循環において重要な役割を果たしています。DOMは、放射性炭素年代の測定結果から、驚くべきことにその平均寿命は約2000〜6000年と推定されており、その90%以上が寿命約15000年と推定される難分解性画分であると考えられています。こうした難分解性DOM(RDOM)の動態は、比較的長い時間スケールでの地球規模の炭素循環を考える上で極めて重要ですが、その起源や生成メカニズムは十分に理解できていません。

この論文は、海洋に長期貯蔵される難分解性DOMの細菌による生成を、海洋細菌単離株の培養実験により定量的に評価した研究です。この研究で使用した細菌株は、Alteromonas macleodiiVibrio splendidus, and Phaeobacter gallaeciensisという海洋で一般的にみられる細菌株で、特に沿岸域で活発に増殖がみられる種です。海水にグルコースと無機態窒素、リンを加えて、これらの細菌が増殖する過程を1〜3週間モニターし、難分解性有機物の生成量や生成パターンを比較しています。その結果、炭素換算のDOM生成効率が高い細菌が存在する事、難分解性だと考えられる腐植様FDOMは幅広い細菌により生成される事、対数増殖期よりも定常期でより効率的に腐植様FDOMを生成する事が明らかになりました。

これまでの研究から、細菌がグルコースのような単純な物質を利用する過程で、難分解性の有機物が生成されることは知られており、今回の研究でもこれを支持する結果となりました。今回はこれに加えて、細菌種の違いにより、難分解性DOMの生成量が大きく変動することがわかりました。このことは、実際の環境中での細菌種組成の違いや環境条件の違いが難分解性DOMの生成量に影響することを示唆しています。

今後はそうした違いがどのようなメカニズムによって生じているのか、これらの細菌の代謝ポテンシャルの違いや、生成される有機物の化学種の特定に踏み込んだ研究に展開していくととても面白いですね。

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