講演1:環境DNA自動分析装置開発の現状と展望
福場 辰洋 国立研究開発法人海洋研究開発機構 主任研究員 専門分野:海中計測学 マイクロ流路システム |
効率的な海洋環境DNA分析を目的として、経時的サンプルの自動採取を可能にする新たな装置の開発が進行中である。現在までに、マルチスケール流体技術を応用して12サンプルを自動採取できる装置の開発と実海域試験を行ってきた。 ここでは、自動遺伝子抽出機能や遺伝子検出機能の集積化の現状とあわせて紹介する。 |
講演2:自動採取装置による環境DNAの検出実証試験
後藤 周史 東京大学大気海洋研究所 特任研究員 専門分野:生物地球化学 |
現在開発中の海洋環境DNAサンプル自動採取装置の実環境での運用を目的として、2020年から毎年3月に、大槌湾沿岸での実証試験を実施してきた。 本発表では2021年に採取したサンプルを用いて、定量PCRによるサケの環境DNAコピー数の定量分析、メタバーコーディング法による原核微生物の群集組成分析を行った結果について紹介する。 |
講演3:環境DNA自動検出に向けたマルチプレックスqPCR
兵藤 晋 東京大学大気海洋研究所 教授 専門分野:魚類生理生態学 |
生物相を一度に解析するメタバーコーディングとは異なり、定量PCR(qPCR)の場合には特定の生物に焦点をあてて解析を行う。感度や定量性という点でメリットがあり、PCRに伴う蛍光輝度の増幅の検出を行えばよいため、自動分析装置にも搭載しやすい。その一方で、一度に多くの生物種の解析を行えないことはデメリットである。 そこで、複数の蛍光を用いることで、一度に複数遺伝子のqPCRを行い検出する「マルチプレックス法」の開発と活用を進めてきた。小型浮魚類については、マサバとゴマサバ、カタクチイワシとマイワシ、サンマとマアジといった組み合わせで一度に2種を検出する手法を確立し、フィールド研究にも用いている(Wong et al., Environmental DNA, 4, 510-522, 2022; Yu et al., PLoS ONE, 17, e0273670, 2022)。また、魚類だけでなく、サケとその餌生物である動物プランクトンの同時解析も進めている。さらには、3種類の蛍光を用いるトリプレックス解析も進めており、その現状を紹介する。 |
講演4:環境DNAメタバーコーディング MiFish法の最新情報:魚類群集の時空間変動を捉える
宮 正樹 千葉県立中央博物館 主任上席研究員 専門分野:分子生態学・進化系統学 |
MiFishプライマーを用いた魚類環境DNAメタバーコーディング法 (多種同時並列検出法) の概要が2015年に発表された (Miya et al. 2015)。それ以来,本手法 (MiFish法) は世界中の水界生態系で魚類群集の網羅的検出に用いられるようになり,論文の通算被引用件数は700件を超えた。 MiFish法は,水中 (もしくは水底) の微量な魚類由来の環境DNA (大型生物の体外に放出されたDNA) 断片をPCR法で増幅し,断片の両端に各種のアダプター配列を付加することにより,大量サンプルの超並列シークエンスを可能にしたものである。これまで,魚類群集は直接採集や目視観察でモニタリングされてきたが,時間も経費も膨大になる上に種を正確に同定するには高度な専門的知識が必要であった。MiFish法の登場により,魚類群集調査を少人数で短期間に,しかも多地点で継続的に実施することが可能になり,これまで捉えることができなかった魚類群集の時空間変動が明らかになってきた。 本発表では,MiFish法で明らかになってきた魚類群集の時空間変動に焦点を当て,最新の研究成果を紹介する。 |
講演5:メタバーコーディングによる動物プランクトン群集の把握 ―これまでの進展と今後の展望―
平井 惇也 東京大学大気海洋研究所 助教 専門分野:プランクトン学・分子生態学 |
動物プランクトンは環境変化に迅速に応答する指標生物であり、魚類の仔稚魚期の餌としても海洋生態系で重要な役割を果たしている。動物プランクトンは形態的特徴により種同定がされてきたが、高い種多様性や微小な形態的特徴が障壁となり、その群集構造の把握は時間・労力のかかる作業であった。また、近年の遺伝子解析により形態的に判別が困難な隠蔽種の存在も明らかになってきている。 そこで、迅速かつ網羅的に動物プランクトン群集を把握する手法として期待されているのがメタバーコーディングである。メタバーコーディングでは動物プランクトン群集から抽出されたDNAから目的の遺伝子領域を増幅し、次世代シーケンサーにより大量配列を取得する。取得した配列はインフォマティクスにより解析し、データベース上の各種の参照配列と比較し、動物プランクトンの群集構造や多様性を把握する手法である。 発表では動物プランクトンのメタバーコーディング法やその技術の進展について概説し、動物プランクトンの広域調査や食性解析への応用などの研究例についても紹介する。また、定量性や参照配列の不足など、今後の課題や将来的な展望についても言及する。 |
趣旨説明・司会進行
濵﨑 恒二 東京大学大気海洋研究所 教授 専門分野:微生物海洋学 |
本イベントは、文部科学省「海洋資源利用促進技術開発プログラム」による「海洋生物遺伝子情報の自動取得に向けた基盤技術の開発と実用化」、東京大学FSIプロジェクト「オーシャンDNAプロジェクト:海洋DNAアーカイブ・解析拠点形成による太平洋の生物多様性と生物資源の保全」において開発された装置と関連技術の社会実装に向けて、より広く多くの方々に紹介することを目的としています。 特に、昨年開催したオーシャンDNAテック2021において紹介した研究開発成果のその後の進捗について紹介すると共に、開発した実機を展示します。 |