平成12年度しんかいシンポジウム 発表要旨
ミトコンドリアDNA塩基配列に基づく
Lamellibrachiidae科ハオリムシ類の系統と進化の研究
小島茂明・太田 秀(東大海洋研)山本智子(鹿児島大水産)
三浦知之(鹿児島大大学院・連農)
藤原義弘・橋本
惇(海洋科学技術センタ−)
化学合成生物群集の代表的な動物群であるハオリムシ類は、現在7科8属に分類されている。このうちLamellibrachiidae科とEscarpiidae科のみが、太平洋と大西洋の両方に生息している。また水深500m以浅の海域から報告されているのも、この2科のみである。Lamellibrachiidae科はLamellibrachia属のみから成り、西太平洋からサツマオリムシL.
satsumaが記載されている他、ラウ海盆からL.
columna、東太平洋からL.
barhami、大西洋からL.
luymesiが記載されている。本研究ではまず、日本周辺の3ヶ所の熱水域と6ヶ所の冷湧水域およびマヌス海盆・PACMANUSサイトの熱水域から採集された103個体のLamellibrachia属ハオリムシについて、ミトコンドリアDNA・COI領域(624塩基対)の塩基配列に基づき系統解析をおこなった。
今回解析したハオリムシは2個体を除き、Kojima
et. al (1997)により提案された3つの暫定的な“種”(ひとつはサツマハオリムシに対応)に分類された。南海トラフ・ユキエ海嶺産のハオリムシ(以下L2)についての多数の個体を用いた解析により、1500m以浅の海域に生息する個体群(以下L1)とは、遺伝的に独立した存在である事が示された。L1は相模湾、南海トラフだけでなく沖縄トラフにも分布していた。またL2が、室戸岬沖水深3100mの冷湧水域にも生息している事も確認された。今回新たに解析をおこなった、黒島海丘の冷湧水域から採集されたLamellibrachia科2個体のうち、1個体がL1であったのに対し、残りの1個体は、これまでに解析されたどの個体とも異なる塩基配列を示し、別の新たな種(以下L5)であると思われる。またマヌス海嶺・PACMANUSサイトで採集された個体についても、新種(以下L4)である可能性が高い。以上より、マヌス海盆を含む西太平洋海域からこれまで採集されたLamellibrachia属ハオリムシは、サツマハオリムシと4つの暫定的な種に分類された。
西太平洋に分布するのLamellibrachia属ハオリムシ類と、Blackら(1997)により塩基配列が報告されている東太平洋やラウ海盆の種との系統関係を解析したところ、西太平洋のLamellibrachia属ハオリムシ類は単系統群ではなく、L1およびL2がラウ海盆に生息するL. columnaと単系統群を形成する事、L4とL5が近縁である事、浅所に生息するサツマハオリムシは、他の種とは系統を異にする事が示された。同様の現象は、Escarpiidae科ハオリムシでも示唆されており、共通の歴史的要因によるものであるかもしれない。日光海山の個体群はサツマハオリムシである事が示された。