三陸海岸ウミニナ類分布調査
(2000年11月)
多くの方々の協力により、日本のウミニナ類の分布と遺伝的な集団構造の研究も、順調に進み、ホソウミニナBatillaria cumingi については、11月の日本ベントス学会大会で、研究発表ができるところまで着ました。ホソウミニナは、同じ属のウミニナなどとは違って、プランクトン幼生期を持たない直達発生種なので、日本各地の集団が、地理的に隔離され、独自の遺伝的特性を持っている事が予想されます。実際ミトコンドリアDNAの塩基配列を調べてみると、日本のホソウミニナは、遺伝的に異なる2つのグループから構成されている事がわかります。下の図は、約400個体のホソウミニナから得られた塩基配列のうち、似ているもの通しをつなぎ合わせて作った、遺伝子ネットワークです。四角は、出現頻度の高い配列、丸は低い配列を示しており、数字は、その配列を持っていた個体数です。小さい丸は1個体のみから得られた配列を表しています。
2つのグループの分布を示したのが、下の図です。片方のグループ(Aグループ)が、五島列島、北九州、日本海、北海道から岩手県に分布するのに対して、もう一方(Bグループ)は、有明海、瀬戸内海、宮城県以南の本州太平洋岸に分布し、瀬戸内海の西側(広島湾)には両方が分布しています。
2つのグル−プの地方集団は、さらに細かい遺伝的に分化したサブグループから構成されていました。この様なホソウミニナの集団構造は、祖先集団が黒潮流域と対馬暖流流域に隔離された後、氷期の分布域縮小と氷期後の北への分布域拡大の繰り返しの中で形成されてきたものと考えられます。
上の図から、岩手県山田湾と宮城県仙台湾の間のどこかにが2グル-プの分布の境界がある事がわかります。今年のベントス学会大会が、東北大学で開催されたのをいい機会に、三陸海岸のウミニナ類の分布調査と採集に行きました(今回は、温泉はなし)。メンバーは前回に引き続いて、東邦大学の風呂田先生、古巣に出戻った飯島明子さんに加えて、三重大学の木村妙子さんです。
ちょっぴり早朝に、仙台を出発した私達の最初の目的地は、東北大の人たちからリサーチしておいた万石浦、牡鹿半島の西側にある大きな塩水湖、林道から降りると、絶景が広がります。
足元の海岸の小石の間には、ウミニナが、ホソウミニナが、イシダタミが。
合流した奈良女子大の和田先生と岩手医科大の松政さんも一緒に貝拾い。
ちょっと離れた所には、と広大な泥干潟があり、たくさんの小さなホソウミニナが這い回っていました。和田先生は、カニ堀りに余念がありません。
次なるスポットの長面浦へ向かう途中の雄勝湾(牡鹿半島の北側)の河口干潟でもホソウミニナ発見。
さらに北上して長面浦。そこは情報通り、足の踏み場も無い程のホソウミニナ密集地。
その後は行けども行けども貝はなし。大船渡市で日が暮れて、この日は試合終了です。
翌朝、何とか岩手の貝を手に入れたい私達、大船渡湾の海岸線を探索しますが、一向に獲物はみつからず。敗色濃厚になった頃、護岸の狭間のちょっとした、砂利っぽい海岸に下りてみますが、死殻はあれど生きた貝は見つからず、諦めかけた時に、何気なく手に取った貝に中身が入っているではありませんか! それではと、根性入れて探して見ると、一匹また一匹、よくよく探すと結構いたりします。集団解析に必要な20個体を無事クリア、岩手県最南のホソウミニナサンプルに満足して、帰路に着きました。お土産は大船渡おさかなセンターで買った銘菓さざえ饅頭(写真とるの忘れたけど、結構笑えます)です。
お楽しみの遺伝子解析の結果、牡鹿半島が境界という当初の予想とは違って、大船渡湾の個体が、山田湾と同じAグループ、宮城県の3ヵ所の個体は、1個体の例外を除いて、仙台湾と同じBグループでした。グループの境界は、概ね岩手県と宮城県の県境、人間が勝手に作った(多分)境界線が、自然の不連続点とよく合っているというちょっと以外な結末でした。