能登半島ウミニナ類分布調査
(2000年5月)
ウミニナ類(Batillaria属)の巻貝は、かつては日本中の干潟でごく普通に見られましたが、近年の沿岸開発によって生息地が減少するのに伴い、多くの場所で絶滅に瀕しています。興味深い事に開発の影響は、プランクトン幼生期を持たず親と同じ場所で育つホソウミニナ(B.
cumingii)よりプランクトン幼生により遠くまで分散する事のできるウミニナ(B.
multiformis)でより深刻な様です。これは、開発によって近隣の干潟が消滅したため、せっかく放出したプランクトン幼生が、生存できる海岸にたどり着く事なく死んでしまうためであると考えられています。我々は、この仮説を検証するために、2種のウミニナ類の集団について遺伝的な構造を比較するため、日本各地で多くの方々に採集して頂いたウミニナ達の研究を進めています。
ウミニナ類は、長い間ありふれた貝だと考えられていた(コレクタ−に見向きもされない)事もあり、正確な分布がわかっておらず、日本海には生息していないのではないかと思われていました。しかし昨年秋のベントス学会の夜間集会で、研究の途中経過を発表した後、島根県や山形県にもウミニナがいるという情報を得ました。また先日入手した山形県のホソウミニナは、福岡県や北海道の集団と遺伝的に近い(ちょっと違う)事が解りました。
そこで、その間を繋ぐ集団を探す事を目的に、共同研究者の東邦大学の風呂田利夫先生、日本海水産研究所の林
育夫さん、環境研究所の飯島明子さんと、能登半島の調査をおこないました。
早朝に新潟を出発した我々は、車で半島の東海岸沿いに北上していきましたが、聞きしに勝る護岸工事天国で、この様な(←)護岸で海岸線のほとんどががっちり固められていて、ほとんど自然海岸が残っていませんでした(特に能登島)。
早くも調査隊の前途に暗雲がたちこめた頃、観音崎の先端にある小さな島、観音島(←)の裏に自然のまま残された転石海岸(↓)を発見しました。
そこには、ごろごろと転がる大型(3cmくらい)のウミニナの姿が(←)。驚いた事にウミニナがいるのは、海岸の中でも畳一畳程の面積の場所(↓)だけだった事です。これではよほど気を付けて探さないと見つからないでしょうから、これまで報告が無かったのも肯けます。おまけに半分乾いた泥の上の貝は、生息しているというよりは、ほとんど落ちている感じで、とても生きている様には見えません。
その後、穴水町の河口域や転石海岸でも、生息地(←・↓)を発見しました。
この日は恋路海岸(○Xサスペンス劇場「湯煙なんたら殺人事件」とかの定番だそうな)近くに宿(←)をとりました。
翌日は能登半島の先端を廻って、西側の海岸線を南下して行きました。それらしい海岸はあるのですが、ウミニナは全く見つからず、さすがに今日は収穫ナシかと、覚悟した頃、輪島の西にある皆月湾の干潟(←)でウミニナの個体群を発見、帰りの林道でヤマドリのオスを目撃するおまけも付きました。
かくして能登半島の両側でウミニナ類を発見した我々は輪島に泊り、翌朝朝市でお土産(ベニズワイガニのキーホルダーとか)を買った後、たらたらと陸路、新潟に戻ったのでありました。
採集したウミニナ類は、早速海洋研に持ち帰り解析を進めていまが、形態(by
千葉中央博物館黒住さん)と分子の双方から、ウミニナ、ホソウミニナ、イボウミニナの生息が確認されました。北海道や他の日本海の集団との遺伝的な関係に興味が持たれるところです。
−おまけ−
地ビール屋さん
千枚田
参考文献
風呂田利夫 「内湾の貝類,絶滅と保全
−東京湾のウミニナ類衰退からの考察−」
月刊海洋号外No. 20 「軟体動物学−動向と将来−」
74‐82 (2000)
風呂田利夫・小島茂明 「ウミニナ類の研究」
日本ベントス学会 第13回大会要旨集 81 (1999)