奄美諸島ウミニナ類調査 (2002年3月1日〜5日)


 琉球列島に、形の変わったウミニナの仲間が生息している事が古くから知られていました。ホソウミニナ又はその亜種と考えられていましたが、1996年に名古屋大学の小澤智生先生によって、新種リュウキュウウミニナとして記載されました。小澤先生によるリボゾーマルDANによる解析と、私達のミトコンドリアDAN・COI遺伝子の塩基配列に基づく解析のいずれも、リュウキュウウミニナはホソウミニナよりも、九州以北の日本列島に分布するウミニナに近い事を示しています。また、有明海など九州西岸から採集されるリュウキュウウミニナ型の貝殻を持つ個体は、ミトコンドリアDNAに基づく限り、ホソウミニナかウミニナである事も分かりました。

 一方、琉球列島の色々な島から、リュウキュウウミニナを採集して、ミトコンドリアDNAを比べたところ、南琉球の島(石垣島、西表島、黒島、宮古島)に住む個体と、中琉球(沖縄本島、久米島)の個体の間に大きな違いがある事が分かりました。中琉球でも、久米島や本島の南側の与根干潟の集団は同じタイプの個体だけで構成されているのに対し、本島北側の大浦には、その他に南琉球の個体と遺伝的に近い個体が、低頻度で生息しています。
 奄美諸島は、行政的には鹿児島県に属していますが、地史的には中琉球に含まれます。奄美諸島のリュウキュウウミニナ集団の遺伝的性質は、典型的な中琉球集団のそれなのか、大浦集団に少数含まれる南琉球型の個体と共通するのか、そして日本列島のウミニナとの関係はどうなっているのかを明らかにするため、奄美列島で、ウミニナを始めとする干潟の貝類の採集を計画しました。

 まず羽田から、一日に一便だけある直通の飛行機便で、奄美大島に行きました。奄美大島では最近、全島の河川の貝類相の調査がおこなわれ、龍郷町の浦というところの干潟にウミニナ類が生息していることが報告されています(増田・早瀬 2000)。

浦川の河口干潟                   浦川河口干潟のウミニナ類
  
  

                                            

付近にあるマングローブ保全地 
 

 

 

 

 

 

 

 さしあたり偵察に行ったところ、調度引き潮だったこともあり、その日のうちに(リュウキュウ)ウミニナの他、ヘナタリとフトヘナタリを多数採集する事ができました。

 

 翌日は、名護から散歩がてら奄美博物館によって古いウミニナ類の標本を見たあと、奄美海洋展示館のある大浜海浜公園へ。お昼ご飯は、展示館の食堂で鶏飯丼。思えば淡青丸で名護港に入った時、食べそこなって以来9年ぶりの再会。”丼”といっても、要するに完成した形で出てくるって事。この後さらに、あと2回鶏飯を食べました。

 

 

 

 

 

 3日朝、気を良くして沖永良部島へ渡りました。しかし、現実はそんなに甘くなく、足掛け3日間徒歩、バス、タクシーで島中捜しましたが、ウミニナは見つかりませんでした。比較的平坦な沖永良部島には、大きな川がなく、ウミニナ類の好む河口干潟が発達していません。以前調査してもらった与論島でもウミニナ類は発見できなかったので、ある程度の面積と標高がある島でないとウミニナ類の生存は困難な様です(黒島という例外もありますが)。             川があってもこの程度↓

                                          

 結局残ったのは日焼けだけで、すごすごと東京に戻る事となりました。

 仕方が無いので、風景写真をご覧下さい。

                       観光名所のフーチェ
         こんなとこにウミニナがいるわけがない(笑) ↓  

 

 

 

 

 

 

 

 さて、奄美大島で採集したウミニナ類について、ミトコンドリアDNAの塩基配列を調べたところ、大変興味深い事が分かりました。解析した20個体中14個体は、リュウキュウウミニナの配列で、大浦の南琉球型個体と同じ配列でした。残りの6個体からは、ウミニナの配列が得られました。ウミニナ類分類の第一人者である黒住さん(千葉県立中央博物館)に見て頂いても、ウミニナのミトコンドリアを持つ個体とリュウキュウミニナとの間に明確な形態上の差は見つかりませんでした。過去に九州から奄美諸島に入ったウミニナのミトコンドリアDNAが、雑種形成によってリュウキュウウミニナ集団の中に残されている可能性もありますが、そもそもリュウキュウウミニナとウミニナが、生殖的に隔離された別の種であるのかどうかを、もう一度、形態と分子の両面から検証する必要があるかもしれません。

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